モスクワの価値
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 03:52 UTC 版)
ヒトラーは首都モスクワを目前にして総統訓令第34号を発令、機甲部隊に南下を命じた。 ・総統訓令第34号 達成されるべき主な目的は……冬に入る以前にモスクワを占領することではなく、それよりも、南の方の、クリミア半島とドネツの工業と石炭の中心地を占領すること、およびコーカサスの油田地帯をロシアから遮断することである。また北のほうでは、レニングラードを封鎖して、フィンランド軍と手をつなぐことである。 ヒトラーの判断はドイツ軍でも評価が分かれている。陸軍総司令部〔OKH〕の参謀総長ハルダーは次のように述べている。「この計画が意味するものは、我々の作戦を、戦略的レベルから戦術的レベルに引きさげることだ。この小集団を攻撃することが、我々のただ一つの目的とするならば、この戦いは、小さな成功の連続のようなものとなり、全戦線における前進は、“一寸きざみ”の遅いものになるであろう。こうした方策をとることで、すべての戦術的危険をのぞき、各軍集団のあいだにある間隙部を閉塞することはできるであろうが、しかしその結果は、我々が攻勢の深度というものを犠牲にして、全戦力を広い正面に拡げてしまうことになる。そして、最後には陣地戦になってしまうであろう。」 第2装甲軍司令官ハインツ・グデーリアンもヒトラーの判断を批判している。「我々の側のこうした動きは、むざむざソ連側に、新しい部隊を編成し、その無尽蔵に近い人的資源を活用させる時間をあたえただけだ。」 しかしこうした批判的意見はフランス戦でのパリからの即座な降伏という前例から来ており、モスクワが陥落したからといってソビエトが降伏するとは限らなかった。事実、ソビエトはウラル以東で徹底抗戦を宣言している。 第3装甲軍司令官ヘルマン・ホトはグデーリアンとは別の見解を示している。仮にモスクワを落としたとしても、工場などの多くはウラル山脈以東に疎開されており後方の予備軍と工業地帯が健在な限りロシア軍は再生する。モスクワ、サンクトペテルブルク、ドネツの工業地帯を同時に叩く必要があるが、戦力が足りず、また東にはシベリアのクズネツク工業地帯もある。軍隊とそれを支える工場群が健在な限りは、恐らくモスクワの陥落がソビエトの敗北を意味するわけではないであろうと自身の回顧録で述べた。しかしながら、モスクワはソ連の戦略上の理由から全ての鉄道線の集中点となっており、道路網が不完全で鉄道に頼るソ連においてドイツ軍が保持し続けていたならば、その政略・戦略上の価値は計り知れないものであり、政治的目標としての価値は高いとも述べている。 そしてヒトラーが南下を命じたのは経済的な面からだった。ドイツ軍は対ソ戦以前から石油をはじめとする資源不足に喘いでいて、対ソ戦も精々4ヵ月ほどしか継続できないと見積もっていた。そのため何としても南の資源を獲得しなければならなかった。
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