メソトレキセート脳室内投与によって放射線なしの治療可能性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/25 07:27 UTC 版)
「髄芽腫」の記事における「メソトレキセート脳室内投与によって放射線なしの治療可能性」の解説
ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンという権威の高い医学雑誌に2005年3月に発表された論文である。ドイツのヴュルツブルク大学からの報告。放射線を照射すると晩期障害が著しい乳幼児の髄芽腫患児に、メソトレキセートの脳室内投与を用いることにより、原則、放射線を用いないで治療した報告で、大変優秀な成績となっている。また、知能は、放射線療法を受けた他の治療の子供たちよりも高く保たれたと報告されている。用いられた薬剤は、メソトレキセートのほか、カルボプラチン、エトポシド、シクロフォスファミド、ビンクリスチンの4剤併用である。カルボプラチンはシスプラチンと同様の白金製剤である。 Treatment of Early Childhood Medulloblastoma by Postoperative Chemotherapy AloneS. Rutkowski and others http://content.nejm.org/cgi/content/short/352/10/978 日本では3歳未満の髄芽腫の5年無進行生存率は通常の大学病院でもおそらく20%以下ではないかと思われる。上記治療では58%となっており、しかも放射線を使用しない治療法であることから、知能が比較的高く保たれており、大変に期待できるものとして注目されている。 日本では、放射線なしで化学療法単独で治る悪性脳腫瘍はないという意見も脳外科医の中にはあるが、髄芽腫については、コリン法(Collin law)というルールの適用があり、診断時年齢 +9か月の間、再発しなければ、治癒したものとみなしてもよいことになっている。本報告では、診断時3歳未満の症例ばかりなので、この考えでいくと5年無進行で生存した者は一応治癒したものとみなしてよいことになる。別で紹介している臨床試験でも原則放射線なしで播種がある幼児を治療して優秀な成績を収めていることもあり、放射線治療なしでもコリン法の期間を超えて長期無病生存している子供たちが多数いることは事実である。 また、髄芽腫の高リスク群では、化学療法を併用しない放射線単独治療では、全員死亡したところ、併用した場合には48%の5年無進行生存率が得られたというアメリカの第三相のランダム化試験のデータもあり、これを見る限り、高リスク群では、どこまで放射線の効果があるのか不明であり、化学療法を強化することが第一選択となるとも言えてしまうことが留意されるべきである。 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=2319316&dopt=Abstract 日本の従来の治療では、3歳になってから放射線を当てる方法が多いが、その方法でも、本報告の生存率には遠く及ばず、しかも知能その他について本報告よりも多大な晩期障害をもたらすことになる。 なお、上記報告では、23 例中 19 例で、MRI上、無症候性白質脳症が検出されたとされており、予想以上に高頻度であったとされている。白質脳症は無症候性である限り、特に問題はないとされている。本報告でも、放射線療法を受けた他の治療の子供たちよりも知能が高く保たれた点は積極的に評価されるべきものである。しかし懸念は残る。白質脳症のリスクが最も高いのは大量メソトレキセート療法と放射線照射との組み合わせであると言われている。この治療では、メソトレキセートの脳室リザーバによる脳室内投与を全コースで72mg、静注(全身療法)で30g/m2という大変な量を投与している。したがって、メソトレキセートの投与量を減らし、その代わりにアルキル化剤等その他の薬剤による大量化学療法を併用するなりの工夫によって、さらに晩期障害が少なく、かつよりよい成績を達成することが期待される。 放射線の代替手段としてのメソトレキセートの投与は、小児白血病の治療において開発されてきたものである。小児白血病では、中枢神経への予防照射による晩期障害が看過できなかったことから、照射に代わるものとして髄注が試みられ、その結果、現在では予防照射は原則しなくてよく、する場合でも12Gyでよいこととなっている。従って、このようなメソトレキセートの投与については、小児白血病の治療経験が豊富な小児血液腫瘍内科医が担当することが望ましい。
※この「メソトレキセート脳室内投与によって放射線なしの治療可能性」の解説は、「髄芽腫」の解説の一部です。
「メソトレキセート脳室内投与によって放射線なしの治療可能性」を含む「髄芽腫」の記事については、「髄芽腫」の概要を参照ください。
- メソトレキセート脳室内投与によって放射線なしの治療可能性のページへのリンク