マッキンリー山とは? わかりやすく解説

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デナリ

(マッキンリー山 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/22 18:48 UTC 版)

デナリ / マッキンリー山
北側からワンダー湖を前景に望む
標高 6190.4 m
所在地 アメリカ合衆国 アラスカ州
位置 北緯63度4分10秒 西経151度0分26秒 / 北緯63.06944度 西経151.00722度 / 63.06944; -151.00722
山系 アラスカ山脈
初登頂 ハドソン・スタックら(1913年
プロジェクト 山
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デナリDenali[dəˈnɑːli])またはマッキンリー山Mount McKinley)は、アメリカ合衆国アラスカ州にあるで、アラスカ山脈、アメリカ合衆国、北アメリカ大陸最高峰[1]標高6190.4 m(2012年の測量前は6194 m[2])。

一帯はデナリ国立公園(約2万4000平方キロメートル)となっている[3]

名称

北米先住民デナッイナ族英語版の言語であるデナッイナ語英語版で「大きな山」を意味する[4]Dghelay Ka'a/dɣəˈlay ˈkaʔa/)」と呼ばれている。また、近隣に住むコユコン族英語版の言語であるコユコン語英語版では「高きもの」「偉大なるもの」を意味する「Deenaalee/diˈnæli/)」と呼ばれる。英語では後者を語源として「Denali[dɪˈnɑːli])」、あるいは稀に「Dinale[dɪˈnæli])」と呼び、これは「デナリ」と邦訳される。

1897年連邦政府によってこの山には、当時の大統領ウィリアム・マッキンリーにちなんだ「マッキンリー山(Mount McKinley)」の名が与えられた。この名称は1896年に、オハイオ州出身の採鉱者が同州出身の大統領候補だったマッキンリーの名を付けるよう提案したことによる[4]

1975年、アラスカ州政府はデナリを正式名称とするよう、連邦政府に働きかけることを始めた。1980年には州法に基づき、山を含む周囲にデナリ国立公園が設置され、同時に州地名局は山の呼称もデナリに改称したが、連邦地名局はマッキンリーを使い続けた。以降は2つの呼称が並存していたが、アラスカ人はデナリの名を好む傾向があり、連邦政府での呼称もそれに変更しようとする運動も行われた。一方で、観光客などは山をマッキンリー、国立公園をデナリと呼び分けることもあった。

2015年8月30日バラク・オバマ大統領は山の名称を正式にデナリへ変更することを発表した[5][6]。この変更は、オハイオ州出身議員に不満をもたらした。

2025年1月20日にドナルド・トランプが大統領に就任すると、その日のうちに名称をマッキンリー山に戻す大統領令に署名[7][8]、24日に合衆国内務省が名称を変更した[9]

特徴

デナリはエベレストよりも大きな山体と比高を持つ。エベレストの標高はデナリより2700 mも高いが、チベット高原からの比高は3700 m程度に過ぎない。一方、デナリは麓の平地の標高は600 m程度であり、そこからの比高は5500 mに達する。

高緯度にあるため、夏と冬の変化が大きい。夏は白夜になるが、冬は日照時間が非常に短くなる。日の出から日没までの時間は夏至では約22時間、冬至では4時間45分である[10]

デナリは高緯度に位置するため気温が低く、夏でも山頂の平均気温は−20 °C程度となる[11][12]。冬には5700 m地点に据えられた温度計の最低気温が日常的に−40 °Cを下回り[13]、1995年には−59.4 °Cを記録している[14]。1969年以前には、中腹の約4600 m地点で最低気温−73.3 °C(−100 °F)を記録したこともある[15]。その影響でヒマラヤアンデスの同一標高よりも気圧が低い[注釈 1]。デナリ山頂と同一気圧になるヒマラヤの標高は、登山シーズンで比較するとデナリ山頂よりも約300–450 m程高い[16]。気圧は夏よりも冬のほうが一段と低くなり、冬のデナリ山頂の気圧は夏のヒマラヤ7000 m超に相当する[17]。そのため、登山者にとっては高山病の危険性が比較的高くなる。

冬にはジェット気流の影響からしばしば160 km/h(≈ 44.4 m/s)の風が吹き下ろし、さらにデナリ・パスのような風が集まる地形ではベンチュリ効果によって風速が倍増することもある[18]

地形

デナリには2つの主要な頂がある。南峰は最高点であり、北峰は5934 mの高さである。北峰は南峰との鞍部から402 m上るため、独立峰とされることもある。

5本の巨大な氷河が山から発していて、ピータース氷河は北西に、マルドロー氷河は北東に流れる。マルドロー氷河の東隣にはトラレイカ氷河がありルース氷河は南東に、カヒルトナ氷河は南西に流れる。

山体は花崗岩でできており、太平洋プレート北米プレートの下に潜り込み、北米プレートの大陸地殻を押し上げたものである。

登頂歴

デナリの「ハイ・キャンプ」
初登頂者の1人であるハドソン・スタック司祭

1903年フレデリック・クックによって初登頂されたと報じられたが、彼に同行していたエド・バレルによって1909年に否定された。ただし、バレルは、北極点初到達をクックと争ったロバート・ピアリーによって大金で買収されていたことが分かっている。

1913年6月7日、真の人類初登頂が達成された。偉業を成し遂げたのは、司祭ハドソン・スタック英語版ハリー・カーステンス英語版ウォルター・ハーパー英語版ロバート・テータム英語版司祭ら、アメリカ人4名である。1947年には、バーバラ・ウォシュバーン英語版が女性として初めて頂上に到達した。1951年ブラッドフォード・ウォシュバーン英語版隊によって登頂されたウェストバットレスルートが現在最も一般的なルートとなっている。

登山シーズンは4月後半から7月中旬[19]。4月、5月は寒く、7月になると雪が緩むので、6月中に登る人が最も多い[19]。1990年以降、登山シーズンには毎年400人から800人ほどが登頂している[20]。2015年までに冬季登頂を果たしたのは10隊17人で、うち5人が単独[21][22]。冬のデナリでは6人が死亡している[21]

  • 1913年6月7日 - 人類初登頂。アメリカのハドソン・スタック英語版ら4名による。
  • 1947年 - 女性初登頂。アメリカのバーバラ・ウォシュバーン英語版による。
  • 1951年 - ウェストバットレスルート初登頂。アメリカのブラッドフォード・ウォシュバーン英語版による。
  • 1961年 - カシンリッジルート初登頂。イタリアのリッカルド・カシン英語版による。
  • 1967年2月28日 - 冬季初登頂。アメリカのデイヴ・ジョンストン(Dave Johnston)、アート・デヴィッドソン(Art Davidson)、レイ・ジュネ英語版による。
  • 1970年(昭和45年)8月26日 - 単独初登頂。植村直己による(世界初の五大陸最高峰登頂)。
  • 1972年(昭和47年)7月12日 - 南壁西稜コースに挑んでいた日本の女性登山家グループ凌雪会のうち3人が遭難死[23]
  • 1976年 - 南西壁ルート初登頂。イタリアのラインホルト・メスナーとブーレ・エルツによる。
  • 1984年(昭和59年)2月12日 - 冬季単独初登頂。植村直己による(下山時に遭難して行方不明)。
  • 1988年3月7日 - 初の冬季単独登頂と下山。アメリカのヴァーノン・テジャス英語版による。
  • 1989年(平成元年)2月23日 - 冬季登頂に挑んだ山田昇、小松幸三、三枝照雄が遭難死。
  • 1998年(平成10年)3月8日 - 日本人初の冬季単独登頂と下山。栗秋正寿による。
  • 2001年6月17日 - 最年少登頂。ルーマニアのガレン・ジョンストン(Galen Johnston、当時11歳)による[24]
  • 2013年6月28日 - 最高齢登頂。トム・チョート(Tom Choate、当時78歳)による[25]
  • 2014年6月7日 - 最速登頂。スペインのキリアン・ジョルネによる。標高2000 mのベースキャンプから頂上までを11時間48分で往復。下りにはスキーを使用。登頂には9時間43分をかけ、それから2時間程度で滑り降りた[26]
  • 2015年(平成27年)6月21日 - イモトアヤコ日本テレビ撮影隊が登頂。

脚注

注釈

  1. ^ Pressure Altitude - A Guide for Climbers
    デナリの気圧は、麓(海抜標高付近)では他の地域と同じくらいであるが、標高が高くなるほど低緯度地域(ヒマラヤやアンデス)よりも気圧が低くなる。なお、緯度による気圧変化の要因には「遠心力による重力加速度変化」と「温度変化」があるが、遠心力の効果は温度変化に比べて無視できる。

出典

  1. ^ 山と溪谷』2018年2月号(山と溪谷社)106頁
  2. ^ 北米最高峰マッキンリー山、83フィート低かった 最新技術測量で”. CNN (2013年9月13日). 2013年9月13日閲覧。
  3. ^ ナショナル ジオグラフィック]最高峰を眺める アメリカ『日本経済新聞』朝刊2023年5月14日20面
  4. ^ a b 北米最高峰マッキンリー、デナリに名称変更”. ナショナルジオグラフィック日本版サイト (2015年9月3日). 2018年1月13日閲覧。
  5. ^ FACT SHEET: President Obama to Announce New Steps to Enhance Administration Collaboration with Alaska Natives, the State of Alaska, and Local Communities The WHITE HOUSE For Immediate Release August 30, 2015
  6. ^ 北米最高峰のマッキンリー、「デナリ」に改名 米大統領発表へ”. 日本経済新聞 (2015年8月31日). 2015年8月31日閲覧。
  7. ^ マッキンリー復活へ、大統領令で 「アメリカ湾」に改称も」『共同通信』共同通信社(ワシントン共同)、2025年1月21日。2025年1月26日閲覧。
  8. ^ RESTORING NAMES THAT HONOR AMERICAN GREATNESS - EXECUTIVE ORDER”. ホワイトハウス (2025年1月20日). 2025年1月21日閲覧。
  9. ^ メキシコ湾「アメリカ湾」に改称 旧称「マッキンリー」も復活」『共同通信』共同通信社(ワシントン共同)、2025年1月25日。2025年1月26日閲覧。</refname="kyodo20241225">旧称「マッキンリー」復活狙う トランプ氏、地元は反発」『共同通信』共同通信社(ワシントン共同)、2024年12月25日。2025年1月26日閲覧。
  10. ^ Dee Molenaar. Mountain's Don't Care, But We Do. https://books.google.co.jp/books?id=NT-RAAAAQBAJ&pg=PT25&lpg=PT25#v=onepage&q&f=false 
  11. ^ マキンリーの気象観測遠征 日本山岳会
  12. ^ Interesting Weather Statistics for US Mountain Summits summitpost.org
  13. ^ マッキンリーの5710 mに設置された Weather Stationの観測データ
  14. ^ マキンリーの気象観測遠征 各年度 気象観測データ概要 日本山岳会
  15. ^ Christopher C. Burt『Extreme Weather』p.51(1969年のthe U.S. Army Natick Laboratoriesによる)
  16. ^ Pressure Altitude - A Guide for Climbers Table 5. マッキンリーの登山シーズンを6月、ヒマラヤの登山シーズンを5月とした。
  17. ^ Pressure Altitude - A Guide for Climbers
  18. ^ Mountaineering in Denali National Park and Preserve(PDF)
    (邦訳)デナリ国立公園・保護区での登山(PDF) Written by: Denali Mountaineering Staff and Medical Advisors
  19. ^ a b Denali(Mount McKinley) summitpost.org
  20. ^ Denali National Park and Preserveサイト内のClimbing Statistics and Weather Observationsにある統計データ 「Annual climbing activity on Mt. McKinley, 1903 to 2014(PDFファイル)
  21. ^ a b Lonnie Dupre Just Solo Summited Denali. That’s a Huge Deal. Outside Online 2015年1月14日
  22. ^ Explorer will attempt first solo January ascent of McKinley Alaska Disptch News 2010年12月29日 2010年までの登頂者リストあり
  23. ^ 「マッキンレー登山中の日本3女性が不明」『朝日新聞』昭和47年(1972年)7月13日朝刊22面(13版)
  24. ^ 12-year-old Romanian ties record for youngest girl to reach Denali summit - Anchorage Daily News, 2016年3月26日
  25. ^ Denali’s Oldest Summiteer Shares How “His Mountain” Has Changed - National Geographic 2013年8月13日
  26. ^ Kilian Jornet on Going Up and Down Denali in Less Than 12 Hrs. Next: Elbrus, Aconcagua - National Geographic Adventure 2014年7月1日

関連項目


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