ホルモン調節
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 21:39 UTC 版)
インスリンはペプチドホルモンの一つで、体の代謝を管理するために重要な役割を担っている。インスリンは、血糖値が上がると膵臓から分泌され、脂質生合成をはじめ、糖の吸収と貯蔵を広く促進する多くの作用を持っている。 インスリンは、主に2つの酵素的経路を活性化することによって脂質生合成を促進する。ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)酵素は、ピルビン酸をアセチルCoAに変換する。アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)酵素は、PDHによって生成されたアセチルCoAをマロニルCoAに変換する。マロニルCoAは、より大きな脂肪酸を作るために使われる炭素2個の構成単位を提供する。 インスリンによる脂質生合成の刺激は、脂肪組織によるグルコースの取り込みを促進することによっても起こる。グルコースの取り込みの増加は、細胞膜に向けられたグルコーストランスポーターの使用、または共有結合的修飾による脂質生成酵素および解糖酵素の活性化を通じても起こりうる。また、このホルモンは、脂質生成遺伝子の発現に長期的な影響を与えることもわかっている。この効果は転写因子SREBP-1(英語版)を介して生じ、インスリンとSREBP-1の結合がグルコキナーゼの遺伝子発現を導くと推定されている。グルコースと脂質生成遺伝子の発現との相互作用は、グルコキナーゼの活性による未知のグルコース代謝物の濃度上昇によって管理されていると考えられている。 SREBP-1経路を通じて脂質生合成に影響を与える可能性があるもう一つのホルモンはレプチンである。レプチンによるこの過程への関与は、グルコース摂取の抑制を通じて脂肪蓄積を制限したり、他の脂肪代謝経路に干渉することで行われる。脂質生合成の抑制は、脂肪酸およびトリグリセリドの遺伝子発現のダウンレギュレーションを通じて行われる。レプチンは、脂肪酸酸化の促進および脂質生合成の抑制を通じて、脂肪組織からの貯蔵グルコースの放出を制御することが明らかになった。 脂肪細胞での脂質生合成の促進を妨げるホルモンとして、他にも成長ホルモン(GH)があげられる。成長ホルモンは、脂肪を減少させる一方で、筋肉の成長を促進させる結果をもたらす。成長ホルモンがどのように機能するかについて提案された機序の1つは、成長ホルモンがインスリンシグナルに影響を与え、それによってインスリン感受性を低下させ、その結果、脂肪酸合成酵素の発現をダウンレギューレートさせるというものである。別の提案された機序では、成長ホルモンが、STAT5A(英語版)やSTAT5Bという転写因子(Signal Transducer And Activator Of Transcription、STATファミリー)によってリン酸化される可能性があることを示唆している。 また、アシル化刺激タンパク質(英語版)(ASP)が、脂肪細胞内におけるトリグリセリドの凝集を促進することを示唆する証拠もある。このトリグリセリドの凝集は、トリグリセリド産生の合成を促進させることによって起こる。
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