ニュースピークの原理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/10 14:33 UTC 版)
「ニュースピーク」の記事における「ニュースピークの原理」の解説
ニュースピークはかつての英語にもとづいているが、その文法と語彙は大きく削減され単純化されている。 もっとも完全にニュースピークだけで表されたものは1984年段階では『タイムズ』など一部の新聞などしかなく、人々はまだニュースピークだけを使って読み書きすることはできずオールドスピークを利用している。しかし、将来、『ニュースピーク辞典第11版』で語法が完成し、ニュースピークの普及がより一層進めば、2050年ごろまでにはオールドスピークは廃止されるべきとされている。オールドスピークが完全に忘れられた時代には、イングソック以前についての記憶やイングソック以前の旧思想は、少なくとも文字によるかぎり成立しないはずである。 ニュースピークは3つの群に分類できる。 A語彙群 日常用語。ただし、意味の曖昧さや政治的意味は排除され、特定の具体的で明白な概念しか持たない。 たとえば、「free」からは「政治的自由」「知的自由」の意味は排除され(そのようなものはイングソックの下では異端の思想であるため存在することはできない)、「シラミからfreeである(シラミがいない)」、「雑草からfreeである(雑草がない)」というような意味しか残っていない。 B語彙群 政治的目的のためにつくられた新語で、ほとんどは合成語。話者に対し好ましい思想を植え付けるためにつくられた。「Ingsoc」(イングソック、もとは「イングランド社会主義」の略で党のイデオロギーの名)、「goodthink」(正統性のこと、あるいは正統的な態度で考えること)、「crimethink」(「犯罪思想」、オールドスピークでは"thought crime"、自由や平等などイングソックに反するあらゆる思考)、「oldthink」(「旧思想」、革命前の古い邪悪な思想、客観性や合理主義など)、「crimestop」(「犯罪中止」、頭の中の犯罪思想に通じる思考を中断させること)、「thinkpol」(「思想警察」、オールドスピークでは"thought police")「goodsex」(「健全性」、健全な性や純潔のこと)、「joycamp」(「歓喜キャンプ」、強制収容所のこと)、「ownlife」(「利己生活」、孤独な行動など個人主義的な逸脱をすること)、「Minipax」(「平和省」、軍事と戦争をつかさどる省庁のこと)など。 これらの用語には、イングソック体制下の政治思想や教育に基づく高度に微妙な意味が含まれている。ニュースピークやイングソックを完全に理解した者は、たとえば「旧思想」という一語から、想像もつかないほどの邪悪や堕落を全面的に理解しうる。これによって、「旧思想」に連想が結びつく多数の言葉が不要になり整理された。 婉曲語法や意識的に正反対な意味の語がもちいられているのは、実態(労働者の抑圧、家族の解体、各国が世界を分割支配し結託して永久戦争を続ける)とは矛盾した用語や思想(社会主義、指導者に対する家族的愛情、オセアニアによる世界の制覇)をかかげることで、両方を意識的に信じることのできるオセアニア国の「二重思考」(ダブルシンク、Doublethink)を支えるためのもの。 C語彙群 科学用語、技術用語。技術的要請のために上記の2群をおぎなうための用語。ただし、政治的意味は排除され、また、「科学」という用語はすでになく、科学的思考自体が犯罪思想とされている。
※この「ニュースピークの原理」の解説は、「ニュースピーク」の解説の一部です。
「ニュースピークの原理」を含む「ニュースピーク」の記事については、「ニュースピーク」の概要を参照ください。
- ニュースピークの原理のページへのリンク