タンパク質精製
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/04 04:21 UTC 版)
Hisタグは大腸菌などの原核生物を用いて発現させた組換えタンパク質をアフィニティ精製する際に使われる。タンパク質を発現させた菌体は、遠心分離で集菌したのちに、機械的にもしくは界面活性剤やリゾチームなどの酵素を用いて溶菌させる。溶菌液中には、組換えタンパク質以外にも細菌を構成する様々なタンパク質が存在しているが、Hisタグのついた組換えタンパク質はアフィニティ担体と強く結合するため特異的に精製することができる。タンパク質の精製度や収量はSDS-PAGEやウェスタンブロッティングで評価できる。 実際には目的の組換えタンパク質以外にも担体に結合してしまうタンパク質が存在する。担体を洗浄する際に20 mM程度のイミダゾールを添加することで、弱く結合している夾雑タンパク質を洗い流すことができ純度が改善する。しかし中には担体と強く結合して不純物となるタンパク質、例えばおよそ27 kDa程度のタンパク質SlyDのようなものも知られている。こうした不純物は他の精製法を使って除去できるが、そもそも該当する遺伝子(上の例ならばslyD)を欠損した大腸菌を用いて発現する方法もある。なおSlyDの場合には金属イオンとしてコバルトを使った場合には結合しない。 酵母などの真核生物で発現させた場合には、原核生物の場合よりも夾雑するタンパク質が多くなる傾向がある。そのためHisタグに加えて他のアフィニティタグも使ったタンデム精製を行う場合もある。ただし金属イオンとしてコバルトを用いることで純度は著しく改善するため、シングルステップ精製で十分な場合もある。 Hisタグはアフィニティタグとしては小さいため除去せずそのまま利用できる場合もあるが、電荷の偏りなどが原因で支障をきたすこともある。タグとタンパク質本体との間にエンドペプチダーゼの認識配列を挿入しておき、これを利用して精製後にタグを除去できるようにするのは常套手段となっているが、エンドペプチダーゼによる非特異的な切断が問題となる場合もある。Hisタグは小さいので、ジペプチジルアミノペプチダーゼを使ってタンパク質のN末端からペプチドを消化し、タグを除去された所で消化反応が止まるようなシステムも利用されている。いずれの場合も、タグを除去した後に再び固定化金属イオンアフィニティクロマトグラフィーを行うことで、タグが除去されたタンパク質だけを精製することが可能である。 Hisタグの作用機序はタンパク質の一次構造のみに依存しているため、組換えタンパク質を変性条件で精製する場合に使える。たとえば大腸菌で強制発現させた組換えタンパク質が封入体を生じて可溶性タンパク質として得られない場合でも、尿素や塩酸グアニジンで変性させた状態で精製することができる。これに対して抗体やGSTを使ったアフィニティ精製では、タンパク質が正しく折りたたまれていることが必要である。その一方でHisタグは他のアフィニティタグと比べて凝集して不溶化しやすいと言われている。
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