ジョン・スノウによる調査
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「ブロード・ストリートのコレラの大発生」の記事における「ジョン・スノウによる調査」の解説
ブロード・ストリートでのコレラの大発生は、大流行の原因というよりも、むしろ結果であった。スノウは、人口に基づいて結論を出すことを躊躇していると述べたように、彼の結論は、主にブロード・ストリートの大発生に基づいていなかった、それは主に近所から逃げて、拡大していた。彼は、研究の結果をさっさと書き上げることを恐れた。 巷に流布されている瘴気説では、コレラや黒死病のような病気は、汚染または有害な空気によって引き起こされているという説であったが、スノウは、この瘴気説に懐疑的であった。しかし、細菌説はこの時点では、確立されていなかった(ルイ・パスツールは1861年までそれを提案しなかった)。スノウは、病気が伝染するメカニズムは理解していなかったが、それでもコレラは汚れた空気により発生しているのではない、と証拠によって信じるようになった。スノウは、住民間の病気のパターンに基づいて、コレラは汚染された水の中の作用因子(agent)によって拡散されている、と仮定した。1849年に初めて、彼は「"On the Mode of Communication of Cholera"」という題の論文で理論を発表した。1855年には第2版を発行したが、そこには1854年のソーホー地区でのコレラ大発生における給水の影響に関して、より詳細な調査結果を含んでいた。 1849年から1854年のコレラの大流行では、当時ロンドンの複数の水道会社によって供給されていた水も要因となっていた。このコレラの大流行の大きな原因となったのが、サウスワーク・アンド・ヴォクソール社(Southwark and Vauxhall Company)と、ランベス・ウォーター社(Lambeth Water Company)が供給した水であった。両社は共に、テムズ川から引き込んだ水を顧客に供給していた。当時のテムズ川は、目に見えるゴミや目に見えないバクテリアなどで高度に汚染されていた。ハッサール博士(Dr Hassall)が、濾過水を検査したところ、ゴミの他、動物の毛までもが含まれていることが判明した。彼は次のように述べている: ロンドンのサリーサイド(Surrey Side)の水道企業、すなわちサウスワーク、ヴォクソール、ランベスの水は、テムズ川から供給を受ける物の中で飛びぬけて悪いことが観察される。 ニュー・リヴァー社(New River Company)やチェルシー社(Chelsea Company)のような他の会社は、より良い濾過水を供給していることが観察された。そして、彼らが供給した地域では、ほとんどコレラによる死者は出なかったのである。スノウは、これら複数の会社は大流行の拡大の責めを負わない、と結論した。これらの2社は、テムズ川よりも綺麗な水源から水を得ただけではなく、明らかな汚染物質が無くなるまで水を濾過していた。 前述のように、スノウは、公衆衛生への影響で知られているが、公衆衛生はコレラの大流行に関する彼の諸研究の後に生まれた。各地域で誰が汚染された水を受け取っているのかを把握しようとした際に、今日では二重盲検法として知られている手法を、図らずも手に入れた。彼は論文の中で状況の諸条件を説明している: 多くの場合、一軒の家には両隣の家とは違う水が供給されている。各社は金持ちにも貧乏人にも、大きな家にも小さな家にも供給している。さまざまな会社から水の供給を受ける人の状態や職業に違いはない……。2つの水道会社から供給を受けている家々や人々にも、またこれらをとりまく物理的条件のいずれにも何の違いもないので、これ以上にコレラの感染蔓延に対する給水の影響を詳しく検証する実験はあり得ないことが明らかで、状況は観察者の前にそのまま提示されている。 この実験はまた規模も最大級のものであった。性別、年齢、職業、地位、身分を問わず、紳士から非常な貧困層まで30万人以上が、無作為に、またほとんどの場合無自覚に、2つのグループに分けられていた。一方のグループにはロンドンの下水を含む水、しかもコレラ患者由来の物質が含まれている可能性のある水が供給されており、他方のグループにはそのような不純物を全く含まない水が供給されていた。 スノウはさらに、各サンプルに対して行われた検査を通して、各家庭の水を研究した。このようにして、その家庭がどの水道会社から水の供給を受けているかを推測することができた。彼は、コレラの拡散が急速に進むのを可能にしたのは、実は、それら大会社を代表する不浄な水であった、と結論した。彼はさらに、ロンドンの複数の刑務所の観察を通して自分の理論を立証し、より綺麗な水源に切り替えた後、わずか数日で、これらの場所でコレラの新規発症者が発生しなくなったことが判った。
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