ジェット戦闘機のカナード
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/10 00:28 UTC 版)
「エンテ型」の記事における「ジェット戦闘機のカナード」の解説
1970年代以降、超音速ジェット戦闘機においてカナードは広く普及する。 その嚆矢となったのはスウェーデンのサーブ 37 ビゲン戦闘機である。それまでの超音速戦闘機に採用例が多かった無尾翼デルタ翼は、離着陸性能に劣るのが最大の欠点であった。尾翼つきデルタ翼とすればその短所は回避できるが、空気抵抗が小さく翼面積が大きく取れるという無尾翼デルタ翼形式のメリットも無くなる。そこでエンテ型の利点のひとつである、高迎え角での揚力増大効果が着目された。かなり小型のカナード翼であれば空気抵抗の増加は僅かで、それでもなお揚力増大効果が大きく、翼面積も無尾翼デルタ翼形式と同等に取れ、離着陸性能が大幅に改善された。 またエンテ型の安定性の低下という欠点は同時に運動性の向上をも意味し、戦闘機においてはメリットとなる。特にCCV技術の確立により、安定性を意識的に低下させても運動性を優先させるのが現代戦闘機(特に第4世代ジェット戦闘機以降)の趨勢となっている。かくて70年代以降の新型戦闘機はカナード機が全盛となった。 ただしサーブ 37 ビゲンは揚力カナードであるのに対し、それ以降の機体は制御カナードが中心である。また、サーブ 39 グリペンのように、着陸時にはカナードを急角度に立てることでエアブレーキとしての機能を持たせる機体もある。これらの機体は従来のエンテ型とは若干性格が異なるため、嚆矢となったビゲンも含めてエンテ型とは呼称せず、カナード付きデルタ翼、あるいはクロースカップルドデルタと呼称する場合が多い。 Su-27戦闘機の発展型であるSu-27M(Su-35)のように、通常の水平尾翼にさらにカナードを追加して運動性能を向上させた機体も多い。ただしSu-27のカナードは、大型の機首レーダーの重量を支えるためでもあり、もともとレーダーが軽いSu-30MK系の一部機種には備わっていない。さらに、2007年型式以降のSu-35であるSu-35BMおよびSu-35の実質上のロシア国内仕様であるSu-27SMでは改良によりレーダーが小型化したため、カナードが廃されている。 CCV技術の実験機においても通常の尾翼にさらにカナード翼を追加した形式が採用され、各国で研究が行われた。日本でも、結局は導入されなかったもののF-2戦闘機でもカナードが検討されており、コンピューター技術の進歩もあいまって、80年代~20世紀末にはカナード付きデルタ翼機が世界の主流となるかのように見えた。 しかし、21世紀以降に設計・製造される新型のマルチロール戦闘機では、運動性と同時に高度なステルス性も重視されるようになる。カナード翼(先尾翼)はバードストライク対策のために小型ながら強度を確保する必要があり、全金属製とすることが主流であるが、前縁部などに電波吸収材の内蔵が困難な全金属製の全遊動式カナードは、ステルス性を損なうとして避けられることがある。たとえば、米国のF-22戦闘機ではカナードも検討されたがステルス性が問題となり通常の水平尾翼が採用されるなど、アメリカ空軍では2015年現在、実用量産機としてはカナード翼を持った機体は運用されていない。逆に、中国において開発中で2011年に初飛行を実施したJ-20は、ステルス機であるがカナードを装備している。
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