シューマッハーの中間技術
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/17 06:48 UTC 版)
「適正技術」の記事における「シューマッハーの中間技術」の解説
シューマッハーは、1965年9月にユネスコ主催の「ラテンアメリカ発展のための科学および技術の適用に関する会議」で報告した論文「中間技術開発を必要とする社会・経済上の諸問題」で中間技術の考えを初めて発表した。1973年に刊行した『スモール イズ ビューティフル』(原題:Small Is Beautiful)では、当時の論文で示した「中間技術(Intermediate technology)」について以下のように定義した。 もし技術レベルというものを「その設備が生み出す雇用機会あたりの設備費」ということを基準に考えるならば、典型的な途上国の土着の技術は、いわば一ポンド技術であり、一方先進国の技術は千ポンド技術といえる。いちばん助けを必要としている人たちを効果的に助けるには、一ポンド技術と千ポンド技術の中間の技術が必要である。それを、これまた象徴的に百ポンド技術と呼ぼう。 — エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハー 、『スモール イズ ビューティフル』 またシューマッハーは中間技術が達成すべき目標として以下の4項目を挙げた。 仕事場は、人びとが現に住んでいるところに作ること。彼らが移住したがる都市部はできるだけ避ける。 仕事場を作るコストを平均してごく安くし、手の届かないほど高い水準の資本蓄積や輸入などに頼らずに、数多く作れるようにすること。 生産方法を比較的単純なものにして、生産工程をはじめ、組織、原料手当、金融、販売等においても、高度の技術はできるだけ避けること。 材料としては、おもに地場の材料を使い、製品は主として地場の消費に向けること。 シューマッハーはマハトマ・ガンディーの思想から強い影響を受け、またビルマの経済計画にも接したことから仏教的な考え方の影響もうけていたといわれる。 ところが、同じ『スモール イズ ビューティフル』の中で後年に書かれたと思われる部分では、異なる「中間技術」の以下の定義を示している。 大量生産の技術は、本質的に暴力的で、生態系を破壊し、再生不能資源を浪費し、人間性を蝕む。一方、大衆による生産の技術は、現代の知識、経験の最良のものを活用し、分散化を促進し、エコロジーの法則にそむかず、希少な資源を乱獲せず、人間を機械に奉仕させるのではなく、人間に役立つように作られている。 私はそれを中間技術と名前をつけたが、それはこの技術が、過去の幼稚な技術よりずっと優れた物ものではあるが、豊かな国の巨大技術と比べると、はるかに素朴で安く、しかも制約の少ない性能を言い表している。(中略)。要するに、だれもが使え、金持ちや権力者のためだけの技術ではないのである。 — エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハー 、『スモール イズ ビューティフル』 このように途上国への移転コストの問題から近代科学技術批判へと論点が動いていることがわかる。田中直は、シューマッハー自身によるこの定義の「ゆらぎ」を、「1960年代後半から1970年代に顕著になった天然資源枯渇問題、公害、人間疎外など近代技術がもたらした問題が念頭にあり、これらの問題を解決するための中間技術を論じるようになった」と解釈した。 シューマッハーの中間技術論は、1965年にイギリスのロンドンで中間技術開発グループを主体とした中間技術普及運動として活動が進められるようになった。
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