アメリカの判決履行拒否
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/26 21:16 UTC 版)
「ニカラグア事件」の記事における「アメリカの判決履行拒否」の解説
1986年6月27日の判決履行を求めた国連総会決議 国連総会会議場 採択日決議文リンク(英語)1986年11月3日 決議41/31 1987年11月11日 決議42/18 1988年12月9日 決議43/11 1989年12月9日 決議44/43 1986年7月11日、ニカラグアは国連安保理に対して1986年6月27日の本案判決履行を求める決議採択を提案した。しかし安保理常任理事国のアメリカが拒否権を行使したことにより、判決履行を求める決議案は否決された。同年8月21日にもニカラグアは安保理に対して同趣旨の提起を行ったが、やはりアメリカの拒否権行使によって安保理での決議採択はならなかった。アメリカの判決不遵守問題は国連総会でも審議され、1986年から1989年にかけて以下のように判決の遵守を求める決議が4度採択された。 日本語訳:総会は(中略)「対ニカラグア軍事・準軍事活動」事件に関する1986年6月27日の国際司法裁判所判決を、国際連合憲章の関連する規定にも適合した形で即時かつ完全に遵守することを緊急に求める。原文:The General Assembly(中略) Urgently calls for full and immediate compliance with the Judgment of the International Court of Justice of 27 June 1986 in the case of "Military and Paramilitary Activities in and against Nicaragua" in conformity with the relevant provisions of the Charter of the United Nations — 国連総会決議41/31、同42/18、同43/11、同44/43、以上4決議に共通する一文を抜粋。 しかしすべての国際連合加盟国対して法的拘束力を生じる安全保障理事会の決定と違い、基本的に国連総会決議は勧告としての機能を持つにしか過ぎず、結局アメリカは判決遵守を求める総会決議をすべて無視した。 国連憲章第94条第2項によれば、本件におけるアメリカのように一方の当事者がICJの判決を履行しない場合には、もう一方の当事者は国連安保理に提訴することができるとされている。しかし国連憲章第7章に基づいた強制措置に関する安保理の決定に対しては常任理事国の拒否権が作用するため、本件のように常任理事国が判決に従わない場合に安保理の強制措置が発動する可能性は極めて低い。実際には本件のようにICJの判決が履行されなかったケースは稀でICJ判決は自発的に履行される場合がほとんどではあるが、そのように判決が履行されるのは紛争発生後に当事国が裁判に付すことに合意した場合であって、本件のように紛争発生後に被告国の同意を得ずに紛争発生前の事前合意に基づいて手続きが進められた国際裁判では、被告国が判決に従わない場合がほとんどであるとする研究もある。1986年6月27日の判決を無視するアメリカの態度に鑑みて、ICJの判決には法的拘束力がない、などと報道されたこともある。国家権力が判決を強制的に履行させる国内裁判と比較すると、確かに本件ICJ判決は異質なものといえる。現代の国際社会は並立する複数の主権国家からなり、世界政府、世界軍、などといった国家の上に立つ権威は存在せず、その国家が当事者となるICJの裁判手続きは国内法で言うところの民事手続きに近いが、そのようなICJの裁判手続きにおいてまるでアメリカの刑事責任を追及したかのような、本件判決のような判断を実践することが果たして現実的に可能であるのか、疑問視する意見もある。結局のところICJは本件において裁判所としての任務である「紛争解決機能」果たすことができなかったとの批判もある。他方で自国の立場を国際世論に訴える意味では、大国による武力行使の違法性をICJ判決が認定したこと自体にニカラグアにとっては政治的な意味があるとする見方もある。そうした立場では「紛争解決機能」だけではなく「法宣言機能」もまた裁判所の任務のひとつであるとし、このニカラグア事件判決についても武力行使に関する国際法の内容について初めて本格的な判断がなされたという点で評価する見解も存在する。
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