「宇宙の二時代」についての神話
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/11 06:07 UTC 版)
「政治家 (対話篇)」の記事における「「宇宙の二時代」についての神話」の解説
そこで客人は、「王者(政治家)」についてのより精緻な議論をしていくに当たって、そのイメージメイキングのために、「宇宙の反転運動と二つの時代」に関する神話を披露することにする。 客人は、「ゼウスがアトレウスに味方して、天体の回転を反転させた」とか、「かつてクロノスが統治した黄金時代があった」といった様々な昔話は、実は「過去の同一の事象」を表現したものであり、それが時間経過によって断片化し、その一部が伝承されたものだと主張する。 そしてその「過去の同一事象」としての、「宇宙の反転運動」を含む「宇宙論」について、以下のように語り出す。 客人によると、この宇宙は、 宇宙の外にいる創造者/最高神によって、万有・宇宙が階層的に統御・調和されている状態 宇宙の外にいる創造者/最高神によって、宇宙が放置されている状態 という2つの状態を、定期的・循環的に反復しており、両者の間では「宇宙の回転運動」の向きも反対になる。(最も直近のその切り替わりを、伝承では「クロノスの黄金時代」(前者)と、「ゼウスの(銀・青銅・鉄)時代」(後者)として表現したとする。) イデアのような常に同一性・同一状態を保っている神聖な一群は、「宇宙の回転運動」の影響を受けないが、動物(の肉体)を含む物体は「宇宙の回転運動」の影響を受ける。前者の神によって統御された時代の「宇宙の回転運動」では、動物はみな若返って消滅していき、後者の神に放置された時代の「宇宙の回転運動」では、動物は老いて消滅していく。 こうして動物は「宇宙の回転方向」に合わせた「若返り」と「老い」を相互に繰り返すことになる他、「宇宙の回転方向」が切り替わる時には、その衝撃で全ての動物種において大規模な死滅が発生する。 前者の神によって統御された時代には、動物たちは種類ごとに下位の神々・神霊が牧養者のように分担管理していた。その結果、動物たちには獰猛なものが見られず、食い合いも、戦争・内紛も発生しなかった。種々の政体の国家なども存在し無かったし、妻・子供の所有も無かった。また人間たちは果樹・森林樹から果実を際限なく入手していたし、衣類も寝台も持たず、穏やかな四季と大地に生えた豊富な草によって野外で生活することが可能だった。 また人間たちは、いろいろな野獣と仲良く言葉をかわせるだけの閑暇と能力を持っていた。そこで客人は仮説として、それを当時の人間が「愛知(知恵の集積)の営み」に活用していたならば、その幸福は現代人を無限に凌駕していただろうと指摘する。 しかし、後者の神によって放置された時代になると、「宇宙誕生以前の状況」に起因する忌むべき不正・不協和な性格が動物の内外に反映されるようになり、時間が経過し、神が忘却されるにつれて、その勢力を強め、その極盛期には優良なものは僅少となる。こうして宇宙は「優良」とは反対のものから成る「混入物」を自分の中へ多量に注ぎ込み続け、破滅の危機を迎える。こうして宇宙が「混乱」「無限定」「類似性完全剥奪」に陥る憂慮が生じると、神が再び介入して宇宙を正しく建て直すことになる。 また、後者の時代においては、人間も神霊の保護を失い、自力で生計を立て自分たちの保護もしなくてはならなくなったが、凶暴化した野獣の餌食となったり、食料に困るなど、非常な苦境に立たされた。そこで様々な神話が伝えているように、プロメーテウスからは火が、ヘーパイストスとアテーナーからは種々の技術が、デーメテールやディオニューソスからは種子と植物が授けられるなど、神々から授けられた道具立てによって人間らしい生活が可能になった。
※この「「宇宙の二時代」についての神話」の解説は、「政治家 (対話篇)」の解説の一部です。
「「宇宙の二時代」についての神話」を含む「政治家 (対話篇)」の記事については、「政治家 (対話篇)」の概要を参照ください。
- 「宇宙の二時代」についての神話のページへのリンク