Ⅰ.腸管造血説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/16 06:06 UTC 版)
充分な食餌が与えられると、それは消化酵素の作用や腸の運動による撹拌を受け、ドロドロの状態(食物性モネラ)になって腸絨毛の表面を覆い尽くし、絨毛の突起が目立たなくなる。食物性モネラは、かつて生命の自然発生説を唱えたオパーリンの「コアセルベート」に匹敵する生命前段階物質である。 このモネラと絨毛組織の境界は不明瞭で、境界領域においては「食物性モネラから絨毛上皮細胞へ」と分化していく漸進的な連続性が観察される(PLATE ⅴ:血球の起原p86)。 腸粘膜は半透膜的な性質をもっており、絨毛が食物を自身の組織内に取り込んで消化する現象は、巨大なアメーバ―様の組織と解釈できる。 なお、絶食ウサギでは、充分に消化されていない木片なども腸粘膜内において観察されており、現代栄養学の「食物中の蛋白質、炭水化物、脂肪などは、それぞれアミノ酸、ブドウ糖、脂肪酸に分解されないと腸粘膜を通過しない」という考え方が否定される。 食物モネラが絨毛組織に取り込まれると、液胞が生じ、液胞内に核ができ、ついには絨毛上皮細胞に分化していく。こうしてつくり出された絨毛上皮細胞は、絨毛組織の内奥部に向かって徐々に押しやられながら赤血球母細胞となる(Photo1.腸造血の実態:自然医学の基礎p125)。 赤血球母細胞は、その細胞質の中に数十個の赤血球を内包している。この赤血球母細胞が認められるのは、体内において腸粘膜(絨毛上皮細胞のすぐ内側の部分)だけであり、骨髄はもちろん、他のいかなる場所にも存在しない。 つまり、食物モネラが絨毛上皮細胞に変わり、それがさらに赤血球母細胞に変わっていく。絨毛上皮細胞は決して固定的な細胞ではなく、食物モネラと一体化して、いずれ赤血球母細胞に発展していく予備軍の細胞なのである。 骨髄造血については、1925年にドーン、カニンガム&セイビン、1936年にジョルダンが絶食状態のハトやニワトリで実験し、骨髄組織から赤血球が生まれることを発見して骨髄造血と規定した。この現象は、絶食という腸造血が抑制された場合の代償性組織造血(赤血球の逆分化による)のひとつである。 森下は、骨髄血管の結紮実験では貧血が起こらないことを確認し、次に腸の壁を腐敗させると貧血が起こることを実験的に証明して、骨髄造血説を否定している。加えて、個体が成熟するにつれて、生体内の骨髄組織はほとんど脂肪化するにもかかわらず、成熟後も多量の赤血球生産の要請に応じて、顕著な造血機能が日夜営まれている矛盾に疑問を呈している。
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