硫黄 所在・製法

硫黄

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/20 08:42 UTC 版)

所在・製法

イジェン火山での硫黄採取。赤い流れは液体の硫黄

天然には数多くの硫黄鉱物(硫化鉱物硫酸塩鉱物)として産出する。単体でも産出する(自然硫黄)。深海では熱水噴出口付近でなどの金属と結合した硫化物温泉硫黄泉)では硫黄が昇華した硫黄華や、湯の花としてコロイド状硫黄が見られ、白く濁って見える。そして人体では硫黄を含むシステインや必須アミノ酸メチオニンとして存在する。

火山性ガスには硫化水素二酸化硫黄が含まれ、それが冷えると硫黄が析出する。これを応用したのが昇華硫黄(火口硫黄ともいう)であり、噴気孔から石で煙道を造り、内部に適宜石を入れて、この石に昇華した硫黄を付着させる採取法であった。ガスから分離し、煙道内に溜まった硫黄は最初のうちは液状であるが、温度の低下にともない次第に粘度を増していき、採取口に近づくころにはほぼ固化した状態で純度の高い硫黄が得られた。硫黄山那須岳雌阿寒岳九重山などの活火山ではこのような方法で硫黄採掘に従事する鉱山が点在していた。19世紀の生産方式はシチリア法英語版が圧倒的な主流であったが[14]、深刻な環境汚染などの問題もあった。

これとは別に、鉱床から得られる硫黄も存在しており、こちらは採掘・選鉱したあと、製錬所において焼き釜に鉱石を入れて硫黄分を溶出させていた。釜から抽出された硫黄は液体であり、これを型に流し込み冷却して円柱状の固体にして出荷した。焼き窯方式は亜硫酸ガスなどが発生するため、のちにオートクレーブを用いて高圧水蒸気に硫黄を溶け出させてこれを回収する方法に切り替わっていった。

知床硫黄山噴煙

日本には火山が多く、火口付近に露出する硫黄を露天掘りにより容易に採掘することが可能であることから、古くから硫黄の生産が行われ、8世紀の「続日本紀」には信濃国長野県米子鉱山)から朝廷へ硫黄の献上があったことが記されている。鉄砲の伝来により火薬の材料として、中世以降は日本各地の硫黄鉱山開発が活発になった。江戸には火打道具も一般に普及して、硫黄附木職人もいた[17]

薩摩藩島津久光神職軍人の島津久籌は、黒船来航ののち、1861年に口永良部島薩摩硫黄島で硫黄採掘に着手した[注釈 3][19]。その後明治期の産業革命に至り、鉱山開発は本格化する。1881年(明治14年)に硫黄の無税輸出が布告され[20]海上保険会社を設立した広海二三郎九州硫黄事業に出資して天然硫黄王と呼ばれ、また、安田財閥釧路の硫黄(アトサヌプリを参照)で築かれたと揶揄されるほどであった。

純度の高い国産硫黄は、マッチ(当時の主要輸出品目)の材料に大量に用いられ、各地の鉱山開発に拍車がかかった。1889年には、知床硫黄山が噴火とともにほぼ純度100 %の溶解硫黄を沢伝いに海まで流出させるほど大量に産出したため、当時未踏の地だった同地に鉱業関係者が殺到したという。海軍軍人・郡司成忠による1893年(明治26年)第一次千島拓殖にも硫黄採掘の記録がある。

昭和20年代の朝鮮戦争時には「黄色いダイヤ」と呼ばれるほど硫黄価格が高騰し、鉱工業の花形に成長したが、昭和30年代に入ると資源の枯渇に加え、石油の脱硫装置からの硫黄生産が可能となったことで生産方法は一変する。エネルギー転換に加え大気汚染の規制が強化されたことから、石油精製の過程で発生する硫黄の生産も急増し、硫黄の生産者価格の下落が続いた結果、昭和40年代半ばには国内の硫黄鉱山はすべて閉山に追い込まれた(岩手県松尾鉱山群馬県の万座硫黄草津鉱業所は1969年に閉鎖[21])。現在、国内に流通している硫黄は、全量が脱硫装置起源のものである。


  1. ^ シチリア産硫黄の輸出先を巡って大英帝国両シチリア王国とのあいだで1840年の硫黄紛争英語版が勃発したとおり、19世紀中頃は世界で生産される硫黄の4分の3はシチリア産であった。
  2. ^ 産業革命のなかで紡績織物など繊維業仕上げ加工 (繊維業)英語版硫酸が使用され始めたことで硫黄の需要は高まり[15]、1832年から 1836年までの5年間で世界の硫黄の産出量は倍増した[16]。 硫黄の主な生産国は、アメリカ、カナダ、ポーランド、フランス、ロシア、メキシコ、日本である。
  3. ^ 島津久籌(又七)は口永良部党移住と同時に事業を始めたため、どう事前準備をしたかについては疑問が持たれている[18]
  1. ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds (PDF) (2004年3月24日時点のアーカイブ), in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
  2. ^ a b 硫黄”. www.kagakukan.sendai-c.ed.jp. 2022年2月14日閲覧。
  3. ^ ロナルド・ルイス・ボネウィッツ著、青木正博訳『ROCK and GEM 岩石と宝石の大図鑑』誠文堂新光社 2007年 120ページ
  4. ^ Ralf Steudel, Bodo Eckert (2003). “Solid Sulfur Allotropes Sulfur Allotropes”. Topics in Current Chemistry 230: 1–80. doi:10.1007/b12110. 
  5. ^ Steudel, R. (1982). “Homocyclic Sulfur Molecules”. Topics Curr. Chem. 102: 149. 
  6. ^ 久保田 港「硫黄の同素体」(「化学と教育」日本化学会 2016 年 64 巻 12 号 p.611)
  7. ^ 辰巳 敬「化学」数研出版 2016年1月10日 p.205
  8. ^ “ゴム状硫黄「黄色」です―17歳が実験、教科書変えた”. 朝日新聞. (2009年1月5日). オリジナルの2009年5月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090506201536/http://www.asahi.com/science/update/0105/TKY200901050126.html 2009年1月5日閲覧。 
  9. ^ S. M. Hong, L. Y. Chen, X. R. Liu, X. H. Wu and L. Su, Rev. Sci. Instrum., 76, 053905 (2005).
  10. ^ P. Yu, W. H. Wang, R. J. Wang, S. X. Lin, X. R. Liu, S. M. Hong and H. Y. Bai, App. Phys. Lett., 94, 011910 (2009).
  11. ^ F.A. コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年
  12. ^ “御嶽山リポート「硫黄のような臭いが・・・」 東大教授がツッコミ「硫黄は無臭だ」”. J-CASTニュース. (2014年9月30日). https://www.j-cast.com/2014/09/30217143.html 2022年2月25日閲覧。 
  13. ^ 温泉などの「硫黄の臭い」は,本当は何のにおいなのか?”. Q&Aで学ぶ/第1章 物質の構成 - 化学図表ウェブ. 浜島書店. 2019年1月6日閲覧。
  14. ^ Kogel, Jessica Elzea; Trivedi, Nikhil C.; Barker, James M.; Krukowski, Stanley T. (2006) (英語). Industrial Minerals & Rocks: Commodities, Markets, and Uses. SME. pp. 942. ISBN 978-0-87335-233-8. https://books.google.com/books?id=zNicdkuulE4C&pg=PA942 Ingraham, John L. (2012-05-07) (英語). March of the Microbes. Harvard University Press. pp. 131. ISBN 978-0-674-05403-5. https://books.google.com/books?id=zLKgl2g24_MC&pg=PA151 
  15. ^ Cunha 2019, p. 279.
  16. ^ Thomson 1995, p. 164.
  17. ^ 石原正明 1808.
  18. ^ 野元新市 2021.
  19. ^ 島津久籌』 - コトバンク
  20. ^ 「硫黄無税輸出差許ス件」(明治14年太政官布告第27号)。
  21. ^ 政治よ追いつけ1 エネルギー革命 進歩の陰に犠牲続出『朝日新聞』1969年(昭和44年)12月15日夕刊 3版 10面






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