硫黄 特徴

硫黄

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/20 08:42 UTC 版)

特徴

熱・電気を伝えにくい。融点(112.8 °C)より少し高温では黄色だが160 °C以上になると暗色になる[2]

多くの同素体結晶多形が存在し、融点密度はそれぞれ異なる。沸点444.674 °C。大昔から自然界において存在が知られている。

硫黄は融解すると血赤色の液体となり、燃やすと青い炎を上げる

S8硫黄は融点直上の温度では黄色をしており、粘性も低いが、温度が上昇するにつれて直鎖状硫黄へと変化が進み、159.4 °C以上では暗赤色(暗色)となり粘性が増大しほとんど流動性を失う。この温度以上ではS8硫黄の環が解裂し、直鎖状のビラジカルが発生し、直鎖状S16、S24などのオリゴマー化が進行し、直鎖状硫黄(Sn)が形成され粘性が急速に増大する。さらに加温すると、直鎖状の分子が切れて再び流動性を取り戻し、沸点の444.674 °Cにいたる。暗赤色の150–195 °Cの硫黄を冷水に投入すると、褐色を帯びたゴム状硫黄が得られる。鉄分など不純物を含む場合は黒褐色、不純物が微量である(純度が99 %を超える)場合は黄色のゴム状硫黄となるという報告もされているが[8]、実際の硫黄の研究においては純度99.9999 %以上の原料などが用いられており、褐色を帯びるのを単に不純物に帰するのは不正確であると言える。そもそもゴム状硫黄(amorphous sulfur)と呼ばれる物質は高温でS8の環状構造が開裂、さまざまな長さの鎖状構造や、濃い色を示すS3などの小さな分子の混合体となったものであり、その生成時の加熱温度や冷却速度などにより異なる組成を示す。このため色や粘度、ヤング率などの物理特性は合成条件に大きく依存する。たとえば急速圧縮法[9]を利用すると黄色透明なゴム状硫黄が得られるが[10]、これは通常の手法で得られる褐色のゴム状硫黄とは熱力学的な特性が大きく異なるアモルファス相である。つまり、不純物により着色するというよりは、「ゴム状硫黄」としてまとめられている不定形化合物にはさまざまなものが存在し、作り方によっては黄色透明な種類のゴム状硫黄も作成可能であったり、不純物の存在によりS8環の開裂や鎖状構造の伸張・再開裂速度が異なり同じ加熱時間でも異なる組成のものが生成されたりするととらえた方がよい[要出典]。なお、準安定状態であるゴム状硫黄は放置すると斜方硫黄に徐々に変化していく。

他の同素体として、硫黄蒸気の分子量測定から S2、S4、S6、S7などが存在することが判明している。また、ハッブル宇宙望遠鏡での木星衛星イオ」のスペクトル観測では、S2、S3、S4の存在が観測されている。2200 °C以上、低圧下では原子状硫黄が主となる[11]

また、硫黄の同素体は環状硫黄分子として人為的に合成されてきており、シクロ-S6を筆頭に、シクロ-S7、シクロ-S9、シクロ-S10、シクロ-S11、シクロ-S12、シクロ-S18、シクロ-S20などが合成され、X線結晶構造解析でその構造が確認されている。

水には溶けにくいが、二硫化炭素に溶解しやすく、ベンゼンおよびトルエンにも少量溶解する。アルカリ水溶液と加熱すると多硫化物およびチオ硫酸塩を生じて溶解する。白金以外の多くの金属と反応して硫化物を形成する。とは接触により室温でも反応して黒色の硫化銀硫化銅を生成する。

シクロ-S6アルケンの硫化に用いる際の反応性がS8硫黄より高いことが知られている。

硫黄自体には臭いがないが、噴火口硫黄泉の周囲など、天然の硫黄が存在する場所で多く発生する硫黄化合物の硫化水素には腐卵臭が、二酸化硫黄には刺激臭がある。俗に「硫黄の臭い」、「硫黄のような臭い」などと言うことがあるが、これはこのような硫黄化合物の臭いであって、これを硫黄の臭いと呼ぶことは正しくない[12][13]


  1. ^ シチリア産硫黄の輸出先を巡って大英帝国両シチリア王国とのあいだで1840年の硫黄紛争英語版が勃発したとおり、19世紀中頃は世界で生産される硫黄の4分の3はシチリア産であった。
  2. ^ 産業革命のなかで紡績織物など繊維業仕上げ加工 (繊維業)英語版硫酸が使用され始めたことで硫黄の需要は高まり[15]、1832年から 1836年までの5年間で世界の硫黄の産出量は倍増した[16]。 硫黄の主な生産国は、アメリカ、カナダ、ポーランド、フランス、ロシア、メキシコ、日本である。
  3. ^ 島津久籌(又七)は口永良部党移住と同時に事業を始めたため、どう事前準備をしたかについては疑問が持たれている[18]
  1. ^ Magnetic susceptibility of the elements and inorganic compounds (PDF) (2004年3月24日時点のアーカイブ), in Handbook of Chemistry and Physics 81st edition, CRC press.
  2. ^ a b 硫黄”. www.kagakukan.sendai-c.ed.jp. 2022年2月14日閲覧。
  3. ^ ロナルド・ルイス・ボネウィッツ著、青木正博訳『ROCK and GEM 岩石と宝石の大図鑑』誠文堂新光社 2007年 120ページ
  4. ^ Ralf Steudel, Bodo Eckert (2003). “Solid Sulfur Allotropes Sulfur Allotropes”. Topics in Current Chemistry 230: 1–80. doi:10.1007/b12110. 
  5. ^ Steudel, R. (1982). “Homocyclic Sulfur Molecules”. Topics Curr. Chem. 102: 149. 
  6. ^ 久保田 港「硫黄の同素体」(「化学と教育」日本化学会 2016 年 64 巻 12 号 p.611)
  7. ^ 辰巳 敬「化学」数研出版 2016年1月10日 p.205
  8. ^ “ゴム状硫黄「黄色」です―17歳が実験、教科書変えた”. 朝日新聞. (2009年1月5日). オリジナルの2009年5月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090506201536/http://www.asahi.com/science/update/0105/TKY200901050126.html 2009年1月5日閲覧。 
  9. ^ S. M. Hong, L. Y. Chen, X. R. Liu, X. H. Wu and L. Su, Rev. Sci. Instrum., 76, 053905 (2005).
  10. ^ P. Yu, W. H. Wang, R. J. Wang, S. X. Lin, X. R. Liu, S. M. Hong and H. Y. Bai, App. Phys. Lett., 94, 011910 (2009).
  11. ^ F.A. コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳 『コットン・ウィルキンソン無機化学』 培風館、1987年
  12. ^ “御嶽山リポート「硫黄のような臭いが・・・」 東大教授がツッコミ「硫黄は無臭だ」”. J-CASTニュース. (2014年9月30日). https://www.j-cast.com/2014/09/30217143.html 2022年2月25日閲覧。 
  13. ^ 温泉などの「硫黄の臭い」は,本当は何のにおいなのか?”. Q&Aで学ぶ/第1章 物質の構成 - 化学図表ウェブ. 浜島書店. 2019年1月6日閲覧。
  14. ^ Kogel, Jessica Elzea; Trivedi, Nikhil C.; Barker, James M.; Krukowski, Stanley T. (2006) (英語). Industrial Minerals & Rocks: Commodities, Markets, and Uses. SME. pp. 942. ISBN 978-0-87335-233-8. https://books.google.com/books?id=zNicdkuulE4C&pg=PA942 Ingraham, John L. (2012-05-07) (英語). March of the Microbes. Harvard University Press. pp. 131. ISBN 978-0-674-05403-5. https://books.google.com/books?id=zLKgl2g24_MC&pg=PA151 
  15. ^ Cunha 2019, p. 279.
  16. ^ Thomson 1995, p. 164.
  17. ^ 石原正明 1808.
  18. ^ 野元新市 2021.
  19. ^ 島津久籌』 - コトバンク
  20. ^ 「硫黄無税輸出差許ス件」(明治14年太政官布告第27号)。
  21. ^ 政治よ追いつけ1 エネルギー革命 進歩の陰に犠牲続出『朝日新聞』1969年(昭和44年)12月15日夕刊 3版 10面






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