火薬類の成分による分類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 13:56 UTC 版)
火薬類について、その成分や化学構造による分類を解説する。 黒色火薬 硝酸カリウム(硝石)75%、硫黄10%、木炭15%を混合したもの。火薬・爆薬としては原始的なもののひとつで、前近代~近代初期においては火器にも多用された。現代ではおもに花火の揚げ薬や大玉の割薬、導火線の心薬に用いられる。静電気や衝撃に敏感なため爆発事故が多い。以前は製造工場で原料を撹拌するローラーが容器の底と衝突して爆発する事故が多発したが、現在は容器の底と直接接触しないような懸架式ローラーになっているため、製造段階での爆発事故はほとんどない。花火をほぐすと、中に入っている黒色火薬が静電気や摩擦などで発火する場合があるため、花火には注意書きがされている。吸水性が高いため湿気に弱いものの、乾燥させれば再使用できる。化学的に安定しているため、長期保管に耐えるという利点を持つ。 通常の黒色火薬より燃焼速度、破壊力が共に大きい火薬を作るには、硝酸カリウムの代わりに、過塩素酸カリウムを使用する。塩素酸カリウムは大変危険な薬品であるため、扱いに注意が必要である。また、エタノール漬け炭素を使用することで、燃焼速度を上げることが出来る。化学肥料などから精製されたこともある。 アミドプルバー 木炭を使うなど、原理としては黒色火薬に類似した火薬。19世紀に黒色火薬の発展型として発明され、ドイツ、オーストリアで多く用いられた。性能としては黒色火薬と無煙火薬の中間にあり当初は画期的な発明とされたが、たった半世紀で無煙火薬が発明されたため、すぐに世の中から姿を消した。 綿火薬 セルロース(脱脂綿等、主に植物性繊維)を濃硝酸と濃硫酸の混合物により、硝酸エステル化することでニトロセルロースが得られる。爆発威力は小さいが、燃焼時の発煙が少ない「無煙火薬」の原料として銃弾や砲弾の装薬に使われる。太平洋戦争末期には、民間から「ふとん」を供出させ、綿火薬を製造した。 下瀬火薬 成分は純粋ピクリン酸である。大日本帝国海軍が砲弾の炸薬として実用化し、日露戦争における大戦果の一因とされた。詳細は「下瀬火薬」を参照 硝安油剤爆薬 硝酸アンモニウム(硝安)94%と軽油や灯油6%を混合した爆薬。非常に爆発しにくいが、それゆえに安全性は高い。また安価という利点もあり、20世紀半ば以降に普及した。硝安爆薬や AmmoniumNitrateFuelOil explosive からANFO(アンホ)爆薬とも呼ばれる。 スラリー爆薬 硝安と水の混合物を主体とする爆薬。含水爆薬、エマルジョン爆薬とも呼ばれる。いろいろなタイプがある。 泥状で流し込むタイプは鈍感で強力な起爆薬が必要である。ゴム状で、やや感度を上げて雷管で起爆できるタイプもある。耐水性が強くANFOより起爆しやすいが低温に弱い。 たくさんの気泡を含ませることにより爆発しやすくなるので、中空のガラスビーズを混ぜる。 カーリット 過塩素酸アンモニウムを主体とする爆薬。日本では成分の違いにより黒、紫、樺、藍、青等に分けられている。カーリットの名前は発明者のスウェーデン人O・B・カールソンにちなむ。 ダイナマイト ノーベルが発明した爆薬。ニトログリセリンは爆発感度が大きいため、取扱に危険が伴うが、珪藻土に滲みこませる、あるいはニトロセルロースと混合してゲル化するなどして固化すると爆発感度が下がり、雷管を用いないと爆発しなくなる。日本では「松」「桐」「榎(えのき)」などのグレードに分けられている。 ペンスリット 四硝酸ペンタエリスリット。ペンスリットの他、ニペリットとも呼ばれる。白色の結晶性粉末で化学式はC(CH2ONO2)4である。爆発威力が大きい、熱に対して鈍感、自然分解を起こしにくい、など優れた特徴を持つ爆薬である。プラスチック爆薬の材料として用いられる。 TNT TNTとは2,4,6-トリニトロトルエンの略称である。衝撃や熱に対してきわめて鈍感、毒性が少ない、金属を腐食しない、など優れた特性を持つため、爆薬として広く用いられている。火薬の代表として、核爆弾の威力を表す単位「TNT換算」に使用されている。TNT火薬は前述のとおり衝撃や熱に対し鈍感であるため、導火線では爆発せず、爆発させる時はTNT本体に雷管を埋め込んで起爆させる。 ヘキソーゲン シクロトリメチレントリニトラミン(1,3,5トリニトロ-1,3,5-トリアジナン)。ヘキソーゲンはTNTに代わる高性能爆薬として開発された。RDXの略称が用いられる。主に軍用。 オクトーゲン 正式名称 1,3,5,7-Tetranitro-1,3,5,7-tetraazacyclooctane(CAS).Octahydro-1,3,5,7-tetranitro-1,3,5,7-tetrazocine(IUPAC)。別名にシクロテトラメチレンテトラニトラミン, HMXなどがある。 過酸化アセトン 過酸化アセトン(かさんかあせとん、 Acetone Peroxide)は有機過酸化物の1種。高性能爆薬として使用される。過酸化水素水(日本ではオキシドールなどと呼ばれる)とアセトン(触媒として塩酸もしくは硫酸)といった比較的容易に手に入る材料で製造可能かつ大掛かりな設備も不要であることから、アマチュア科学者や危険物マニアなどに密造されることが多い。日用品で製造できる手軽さ・秘匿性と十分な威力を併せ持つことからテロリストに悪用されることもあり、最近ではロンドン同時多発テロやパリ同時多発テロ、2016年ブリュッセル爆発事件で使用された。 笛薬 安息香酸カリウムと過塩素酸カリウムの混合物である。燃焼時に高い音響を発生し、「笛ロケット」という種類のロケット花火等に使われる。 ニトログリコール (nitroglycol) 二硝酸グリコールとも呼ばれる。ダイナマイトなどに使用される。 ピクリン酸 フェノールをニトロ化したものであり、上述の下瀬火薬などの主原料として知られる。トリニトロトルエン(TNT)より破壊力はあるものの、不安定で暴発の危険性が高いうえに腐食性や毒性もあるため扱いづらく、20世紀以降は多くの国で次第に他の火薬へ置き換えられていった。 液体酸素爆薬 液体酸素を木炭のようなものに充填し、雷管を使用して点火爆発させる。特別な薬品類を使用せずにダイナマイト程度の破壊力を示すが、迅速な処理を必要とする。 コンポジション爆薬 混合爆薬の一種で、A-3・B・C・C-4などの種類がある。 PBX爆薬 砲弾やミサイルの炸薬として広範囲に使用されている。 ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン (HNIW) 現時点で量産可能な爆薬としては最大の威力を持つ。 FOX-7 研究中の高性能爆薬、実用化はされていない。 トリアミノトリニトロベンゼン 実用爆薬中、最も安定性が高い爆薬で高い信頼性を要求される用途に用いられる。 オクタニトロキュバン 理論上最大の威力を持つとされ、爆発時に出るガスは無色透明なため完全な「無煙」の爆薬。しかし、製造までに四十もの工程があり、それに使用する機器等も非常に高価なため、コストや量産性などの問題から現時点では実用化されていない。 雷酸水銀 二価の雷酸水銀は別名として雷汞(らいこう)とも呼ばれる。非常に高い感度と爆速値を持つことから、主に雷管・起爆薬として用いられる。近似した性質を持つ雷酸銀(I)やアジ化銀も同様に雷管・起爆薬として用いられるが、原料の違いによりこれらに比べ安価という利点を持つ。 ジアゾジニトロフェノール(DDNP) 爆速値の高さから雷管・起爆薬として用いられる。水中では起爆しないという特性を持つ。また、雷酸水銀やアジ化鉛と異なり、反応後に重金属汚染が発生しない。 ニトログアニジン
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