やまねこ座
名称:やまねこ座(山猫座)
学名:Lynx
小分類:北半球
構成する主な星雲、星団、恒星:NGC2419(球状星団)
神話の主な登場人物:−
日本で観測できる時期:11月〜7月の約9ヵ月間
見ごろの季節:春(20時正中は3月中旬)
春の北の空、おおぐま座とふたご座にはさまれている、細長い星座です。17世紀にそれまで星座のなかった領域に作られたもので、見つけやすいとはいえません。望遠鏡を向けてみると、星座の中ほどあたりに、球状星団が見つかります。この星団は地球から約20万光年離れていて、球状星団の中では最も遠いもののひとつです。
1.見つけ方のポイント
春の北の空を見ると、北斗七星のひしゃくの端と、ふたご座の2つ星ポルックスとカストルのちょうど中間あたりに、ジグザグの星の並びがあります。これがやまねこ座です。3等星と4等星ばかりである上、並び方にも特徴がないので、見つけにくい星座です。
2.神話の内容について
17世紀のポーランドの天文学者、ヨハンネス・ヘヴェリウスによって作られたもので、神話とは関係ありません。命名された当初は「山猫、または虎」という名前で、あいまいでした。さらにヘヴェリウスは「ここに山猫の姿を見出すのは山猫のような鋭い目の持ち主でないと不可能であろう」などという言葉も残しています。
3.同じ時期に見える星座について
春の北の空に見え、3月中旬には天頂近くまで昇ります。よって、おおぐま座やこじし座、こぐま座、りょうけん座などの北の空をめぐる星座と一緒に見えます。また、西にはぎょしゃ座やペルセウス座、南にはふたご座やかに座などを見ることができます。
4.主要都市での観測について
日本全国で見ることができますが、どれと言い当てるのは難しいでしょう。
※参考文献:「星座クラブ」沼澤茂美著(誠文堂新光社)、「星のポケットブック」(誠文堂新光社)、「星座天体観測図鑑」藤井旭著(成美堂出版)、「星座・夜空の四季」小学館の学習百科図鑑、「星座博物館・春」、「同・夏」、「同・秋」、「同・冬」、「同・星座旅行」瀬川昌男著(ぎょうせい)、「星空ガイド」沼澤茂美、脇屋奈々代著(ナツメ社)
やまねこ座
Lynx | |
---|---|
属格形 | Lyncis |
略符 | Lyn |
発音 | 英語発音: [ˈlɪŋks]、属格:/ˈlɪnsɨs/ |
象徴 | オオヤマネコ[1] |
概略位置:赤経 | 06h 16m 13.8s - 09h 42m 50.2s[1] |
概略位置:赤緯 | +32.97° - +61.96°[1] |
広さ | 545平方度 (28位) |
主要恒星数 | 4 |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 42 |
系外惑星が確認されている恒星数 | 5 |
3.0等より明るい恒星数 | 0 |
10パーセク以内にある恒星数 | 0 |
最輝星 | α Lyn(3.14等) |
メシエ天体数 | 0 |
隣接する星座 | おおぐま座 きりん座 ぎょしゃ座 ふたご座 かに座 しし座(角で接する) こじし座 |
やまねこ座(やまねこざ、Lynx)は現代の88星座の1つ。17世紀末に考案された新しい星座で、オオヤマネコがモチーフとされている[1][2]。おおぐま座とぎょしゃ座の間にあり、オリオン座に匹敵する広さがあるが、明るい星がないため全く目立たない星座である。
主な天体
3等星のα星以外は、どれも4等星以下の暗い星である。また、ギリシア文字の符号が付けられた星はα星だけである。
恒星
2022年4月現在、国際天文学連合 (IAU) によって5個の恒星に固有名が認証されている[3]。
- 31番星:見かけの明るさ4.25等の橙色巨星で4等星[4]。「アルシャウカト[5]Alsciaukat[3]」という固有名を持つ。
- HD 75898:見かけの明るさ8.03等の8等星[6]。国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でクロアチア共和国に命名権が与えられ、主星はStribor、太陽系外惑星はVelesと命名された[7]。
- WASP-13:見かけの明るさ10.42等のG型主系列星で10等星[8]。国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でイギリスに命名権が与えられ、主星はGloas、太陽系外惑星はCruinlaghと命名された[7]。
- XO-4:見かけの明るさ10.81等の11等星[9]。国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でエストニア共和国に命名権が与えられ、主星はKoit、太陽系外惑星はHämarikと命名された[7]。
- XO-5:見かけの明るさ12.1等のG型主系列星で12等星[10]。国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でチェコ共和国に命名権が与えられ、主星はAbsolutno、太陽系外惑星はMakropulosと命名された[7]。
そのほか以下の恒星が知られる。
- α星:見かけの明るさ3.14等の橙色巨星で3等星[11]。やまねこ座で最も明るく見える恒星。
- おおぐま座10番星(10 UMa):4.18等のA星と6.48等のB星からなる分光連星[12]。元はおおぐま座の星とされたが、1922年にIAUが領域を定めた際にやまねこ座の領域とされた。
星団・星雲・銀河
その他
由来と歴史
2世紀頃の古代ローマの学者クラウディオス・プトレマイオスは著書『アルマゲスト』の中で、現在のやまねこ座の領域にある星々を「星座に属さない星」として記録していた[2]。オランダのペトルス・プランシウスは、1612年に製作した天球儀の上で、おおぐま座周辺にある星座に属していない星の並びをヨルダン川に見立てた「ヨルダン座」を置いた[14]。このヨルダン座は、のちの1624年にヤコブス・バルチウスの著書『Usus Astronomicus Planisphaerii Stellati』で星図に描かれたことから、バルチウスが考案した星座であると誤解されることもある[14]。
やまねこ座は、17世紀末にポーランドの天文学者ヨハネス・ヘヴェリウスによって考案された[2]。初出は、ヘヴェリウス死後の1690年に妻Catherina Elisabetha Koopman Hevelius によって刊行された著書『Prodromus Astronomiae』に収められた星図『Firmamentum Sobiescianum』と星表『Catalogus Stellarum』であった。ヘヴェリウスは、プランシウスがヨルダン座を置いた領域を、やまねこ座・りょうけん座・こじし座の3星座に改めた[2]。やまねこ座が置かれた領域は、1つの3等星を除けばどれも4等星以下の暗い星ばかりであった。そのためヘヴェリウスは『Prodromus Astronomiae』の中で「誰もがオオヤマネコではなくオオヤマネコのような(鋭い)目を持つ訳ではないので、ここにやまねこ座を設定したのだ」と述べている[2]。なお、星座名は星図と星表で異なっており、星図『Firmamentum Sobiescianum』では Lynx[15]と記されたのに対して、星表『Catalogus Stellarum』では Lynx sive Tigris[16]と記されていた。
1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Lynx、略称は Lyn と正式に定められた[17]。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。
中国
中国の天文では、やまねこ座で最も明るいα星と38番星の2星が、二十八宿の南方朱雀七宿の第四宿「星宿」にある星官「軒轅」に配されていた[18]。
呼称と方言
日本では、明治期に「リンクス」と呼ばれていた。これは、1908年(明治41年)4月に創刊された日本天文学会の会報『天文月報』第1巻1号に掲載された「四月の空」という記事の星図で確認できる[19]。その後、1910年(明治43年)2月には「リンクス」から「山猫」に訳名が改められた[20]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「山猫(やまねこ)」として引き継がれた[21]。戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[22]とした際に、Lynx の日本語の学名は「やまねこ」と定まり[23]、これ以降は「やまねこ」という学名が継続して用いられている。
天文同好会[注 1]の編集により刊行された『天文年鑑』では、1931年(昭和6年)3月に刊行された『天文年鑑』第4号から、星座名は Lynx sive Tigris、訳名は「山猫又は虎」と変更され[24]、以降この星座名と訳名が継続して用いられた[25]。
現代の中国では「天猫座」という呼称を用いている[26]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d “The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年1月22日閲覧。
- ^ a b c d e Ridpath, Ian. “Lynx”. Star Tales. 2023年1月22日閲覧。
- ^ a b Mamajek, Eric E. (2022年4月4日). “IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. 国際天文学連合. 2023年1月22日閲覧。
- ^ "31 Lyn". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月22日閲覧。
- ^ "HD 75898". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月22日閲覧。
- ^ a b c d “Approved names” (英語). Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2020年1月2日閲覧。
- ^ "WASP-13". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月22日閲覧。
- ^ "XO-4". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月22日閲覧。
- ^ "XO-5". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月22日閲覧。
- ^ "alp Lyn". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月22日閲覧。
- ^ "10 UMa". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月22日閲覧。
- ^ "PTF 11kx". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月22日閲覧。
- ^ a b Ridpath, Ian. “Jordanus”. Star Tales. 2022年12月15日閲覧。
- ^ Hevelius, Johannes (1690). “Firmamentum Sobiescianum”. Prodromus Astronomiae. Gedani: typis J.-Z. Stollii. pp. 446-447. OCLC 23633465
- ^ Hevelius, Johannes (1690). “Catalogi Fixarum”. Prodromus Astronomiae. Gedani: typis J.-Z. Stollii. p. 293. OCLC 23633465
- ^ Ridpath, Ian. “The IAU list of the 88 constellations and their abbreviations”. Star Tales. 2023年1月20日閲覧。
- ^ 大崎正次「中国の星座・星名の同定一覧表」 『中国の星座の歴史』雄山閣出版、1987年5月5日、294-341頁。ISBN 4-639-00647-0。
- ^ 「星座名」『天文月報』第1巻第1号、1908年4月、 12頁、 ISSN 0374-2466。
- ^ 「星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、 11頁、 ISSN 0374-2466。
- ^ 東京天文台 編 『理科年表 第1冊』丸善、1925年、61-64頁 。
- ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2。
- ^ 「星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、 158頁、 ISSN 0374-2466。
- ^ 天文同好会 編 『天文年鑑』4号、新光社、1931年3月30日、8頁。doi:10.11501/1138410 。
- ^ 天文同好会 編 『天文年鑑』10号、恒星社、1937年3月22日、8頁。doi:10.11501/1114748 。
- ^ 大崎正次「辛亥革命以後の星座」 『中国の星座の歴史』雄山閣出版、1987年5月5日、115-118頁。ISBN 4-639-00647-0。
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