弦の場の理論
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弦の場の理論(げんのばのりろん、英語: String Field Theory)とは、相対論的な弦の力学が場の量子論の言葉で再定式化されるような弦理論の定式化である。弦の散乱振幅を弦の結合と分岐の頂点、及びプロパゲーター(propagator)を見つけることにより、この定式化は摂動論のレベルで完成している。これによりファインマン・ダイアグラムの様な振幅が与えられる。大半の弦理論ではこの振幅は、自由弦と加えられた相互作用項を第二量子化することにより得られる古典的作用によりエンコードされている。通常の(場の理論の)第二量子化の場合と同様に、その定式化の古典場の構成は、元々の理論の波動関数により与えられる。このことは、弦の場の理論の場合も 弦の場 と呼ばれる古典的構成が、自由弦の作るフォック空間の元で与えられることを意味する。
定式化の主要な有利点は、オフシェル(off-shell)の確率振幅の計算が可能なことであり、古典的作用が有効なときには、弦の散乱の標準的な種数による方法からは、直接見ることのできない非摂動的な情報をもたらすことである。特に、アショク・セン(Ashoke Sen)の研究 [1]に従うと、不安定なDブレーン(D-brane)上のタキオン凝縮(tachyon condensation)の研究に役立つ。弦の場の理論は、
にも応用出来る。
弦の場の理論は、第二量子化される弦のタイプによって多くの多様性を持っている。開弦の場の理論 は開弦の振幅を記述し、閉弦の場の理論 は閉弦の場の理論を記述し、開閉弦の場の理論 開弦と閉弦の双方の場の理論を意味する。
加えて、元々の自由弦の理論でワールドシートの微分同相写像と共形変換をどのように固定するかに依存して、結果として現れる弦の場の理論は、非常に異なったものとなりうる。光円錐ゲージ理論(light cone gauge)を使うと、光円錐ゲージの弦の場の理論 を得る。一方、BRST量子化(BRST quantization)を使うと 共変な弦の場の理論 を得る。これらをハイブリッドにした弦の場の理論もあり、共変光円錐ゲージの弦の場の理論 と呼ばれ、光錐ゲージ固定とBRSTゲージ固定を行う弦の場の理論を使う。[5]
弦の場の理論の最終的な形は、背景独立な開弦の場の理論 と呼ばれ、全く別の形態を取る。ワールドシートの弦理論を第二量子化することに替わり、2-次元の場の量子論の空間を第二量子化する。[6]
光錐の弦の場の理論
光錐の弦の場の理論はスタンレイ・マンデルスタム(Stanley Mandelstam)により導入され、[7]マンデルスタムやマイケル・グリーン(Michael Green)やジョン・シュワルツ(John Schwarz)やラース・ブリンク(Lars Brink)により開発された。[8] 光錐の弦の第二量子化の明らかな記述は、ミチオ・カク(Michio Kaku)と吉川・圭二(Keiji Kikkawa)により与えられた。[9][10]
光錐の弦の場の理論は構成された最初の弦の場の理論であり、光錐ゲージの弦の散乱の単純さを基礎としている。例えば、ボゾン閉弦(bosonic closed string)の場合には、ワールドシートの散乱図形は自然にファインマン図形のような形をなり、下図のように一つのプロパゲーターの2つの成分から作られる。
さらに、結合と分岐のための2つの頂点は、3つのプロパゲーターを貼り合わせを使うことができて、下図のようになる。
これらの頂点とプロパゲーターは、
赤い線に沿って
3次元に埋め込まれた頂点を表現するために、プロパゲーターは中線に沿って半分に折り曲げてある。その結果により得られる幾何学は、3つのプロパゲーターの中線が出会い、曲率が特異となるただ一つの点を除き、完全に平坦である。
これらのファインマン・ダイアグラムは、開弦の散乱ダイアグラムのモジュライ空間の完全な被覆空間を生みだす。このことから、オンシェルの振幅に対し、ウィッテンの開弦の場の理論を使い計算された n-個の点を持つ開弦の振幅は、通常のワールドシートの方法を使い計算された振幅と同一である。[24] ウィッテンの弦の場の理論を使った最初のオフシェル計算は、スチュアート・サミュエル(Stuart Samuel)により行われた。
超対称性と共変な開弦の場の理論
ウィッテンの3次の開弦の場の理論の超対称的拡張を構成する主要な方法は、2つある。一つは、ボゾンの仲間の形によく似せて構成する方法で、変形された3次超弦理論の場の理論(modified cubic superstring field theory)である。2つめは、ナタン・バーコヴィッツ(Nathan Berkovits)による全く異なった、WZWモデル(WZW model)タイプの作用をベースとした方法である。
変形された3次超弦理論の場の理論
ウィッテンの3次の開弦の場の理論のRNS弦への拡張である整合性を持つ第一の拡張は、クリスティアン・プレイトショフ、チャールズ・ソーン(Charles Thorn)、スコット・ヨスト、さらに独立に、イリーナ・アレフェエバ(Irina Aref'eva)、メドヴェーデフ(P. B. Medvedev)、ズバレフ(A. P. Zubarev)により得られた。[25] NS弦は小さなヒルベルト空間(つまり )で、ゴースト数 1 のピクチャー数 0 の弦の場の形を取る。
作用は、ボゾン的な作用に似た形をしている。
ここに、
はピクチャー数を逆にする作用素である。示唆されているピクチャー数 の理論をラモンセクター(Ramond sector)へ拡張することは問題があるかも知れない。
この作用はツリーレベルの振幅を再現するため示され、正しいエネルギーを持つタキオン真空解を持っている。[26] この作用の一つの微妙な点は、中点でピクチャー数を変換する作用素を入れることで、このことは線型化された運動方程式が次の形をとることを意味する。
は非自明な核を持っているので、 のコホモロジーにはない本質的に余剰な解が存在する。[27] しかし、そのような解は中点近くでの作用素の挿入かも知れないし、本質的な特異性かもしれず、この問題の重要性は未解決である。
バーコヴィッツの超弦の場の理論
開弦の場の全く異なった超対称的作用がナタン・バーコヴィッツにより構成されている。[28]構成された形は、
の形をしていて、積の全てが反交換子 を含む *-積を使い構成されており、 は でかつ である任意の弦の場である。弦の場 は大きなヒルベルト空間(つまり、 のゼロモードを「意味している」)のNSセクターである。これがどのようにして R セクターと協調するのかについて知られていないが、基本的なアイデアはある。[29]
運動方程式は
の形をしている。
作用は次のゲージ変換の下で不変である。
この作用の主な優位点は、任意のピクチャー数を変更する作用素に影響されないことである。ツリーレベルの振幅が正しく再現されていることが示されていて[30]、数値的には適当なエネルギーを持つタキオン真空を持つことが発見されている。[31] 古典運動方程式の唯一知られている解析解は、臨界での変形として得られる。
共変な開いた超弦の場の理論の他の定式化
最小ではない純粋スピノル変数を用いた超弦の場の理論の定式は、バーコヴィッツにより導入された。[32] 作用は3次で、核が自明である中点での挿入を意味する。純粋スピノルを用いた定式化ではいつもそうであるように、ラモンセクター(Ramond sector)は簡単に扱うことができる。しかしながら、GSO-セクターとどのように協調して定式化の中にいれるかが明らかではない。
上記で問題として提示されている変形された3次の理論の中点への挿入を解決しようとする試みの中で、バーコヴィッツとジーゲルは RNS 弦の非最小拡張を基礎とした超弦の場の理論を提案した。[33] 理論は核が無い中点への挿入を使用している。そのような方法が、非自明な核を持つ中点の挿入よりも良い方法であるか否かは明らかではない。
共変な閉弦の場の理論
共変な閉弦の場の理論は、開弦とその仲間よりも込み入っていると想定される。たとえ閉弦の間の ツリーレベル の相互作用を生成するだけの弦の場の理論を構成しようとしても、古典的作用が 無限 個の頂点を含んでいる必要がある。[34] 無限個の頂点は、弦の多面体から構成されている。[35]
オンシェルの散乱図形が弦の結合の全てのオーダーで再現することを要求すると、同じように高い種数から発生する(従って の高いオーダーの)頂点をさらに含まねばならない。一般には、明らかに BV 不変な量子化された作用は、次の形を取る。[36]
ここに、 は種数 の曲面から発生する 次のオーダーの頂点であり、 は閉弦の結合である。原理的には、頂点の構造は最小領域の処方により決定される。[37] しかし、多面体の頂点に対してさえ、明らかに計算されているのは4次のオーダーでしかない。[38]
共変なヘテロ弦の場の理論
ヘテロ弦のNS セクターの定式化はバーコヴィッツ、大川、ツバイバッハ(Zwiebach)により与えられた。[39] この定式化は、ボゾン的な弦の場の理論とバーコヴィッツの超弦の場の理論のアマルガムである。
脚注
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- ^ D. Gaiotto and L. Rastelli, "A Paradigm of open/closed duality: Liouville D-branes and the Kontsevich model", JHEP 0507:053, (2005)
- ^ H. Hata, K. Itoh, T. Kugo, H. Kunitomo, and K. Ogawa, "Manifestly Covariant Field Theory of Interacting String." Phys.Lett. B172 (1986) 186.
- ^ E. Witten, "On background independent open string field theory." Phys.Rev. D46 (1992) 5467.
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M. B. Green, J. H. Schwarz and L. Brink, “Superfield Theory Of Type II Superstrings,” Nucl. Phys. B 219, 437 (1983);
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関連項目
弦の場の理論
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現在の定式化では、南部=後藤作用もしくはポリヤコフ作用から出発し、弦の単一過程の確率振幅を求める事が出来る。場の量子論とのアナロジーで言えば、これはファインマンダイアグラムの一つ分に相当する。全ての過程のダイアグラムを足し合わせる事によって振幅を求める事は可能とされるが、これは理論が摂動論で定義されたに過ぎない。場の量子論では場というもので作用を書き下し、それを摂動展開する事によってファインマンルールを得るが、弦理論でのこれに相当する定式化、弦の場の理論はミチオ・カクと吉川圭二による提唱以来、様々な研究が重ねられてきたが、未完成である。 例えばDブレーンは、非摂動論的な対象の一つである。Dブレーンは開弦から出来ており、ボソン弦理論の全てのDブレーンは開弦由来のタキオンを含む。タキオンの存在は場の理論においては、その状態が不安定である事を意味し、結論としてボソン弦理論の全てのDブレーンは崩壊する。崩壊後の状態は、Dブレーンがないため開弦が存在できず、もはや弦での記述が不可能となる。弦の場の理論はこのような状態の記述が出来ると期待され、実際に数値計算でならばポテンシャルが求められている。極めて小さいエネルギーで安定状態が存在するとされる(タキオン凝縮, en)。 閉弦タキオンに関してはこのような物理的解釈すら出来ない。これをもってボソン弦理論は不完全であり、弦の完全な定式化のためには超対称性が必要不可欠であるとする立場がある一方、弦の場の理論の研究はなおも続けられている。
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