北岳 動植物

北岳

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/17 14:24 UTC 版)

動植物

タカネマンテマ。北岳南稜頂上付近の登山道にて。2009年8月8日撮影。
草すべりの高山植物の群生地

北岳の植物

北岳を含む赤石山脈は、夏に降雨量が多いため、上部の森林限界ハイマツコケモモを除いて、コメツガシラビソなどの針葉樹林に覆い尽くされている[13]。森林限界の下部には、ダケカンバカラマツが多い。残雪が消えた山頂直下南東斜面の石灰岩質の場所では、北岳の固有種であるキタダケソウが咲き始める[36]。キタダケソウが世の中に紹介されるようになったのは1934年からである[29]。他に、高山植物の代表的な固有種であるキタダケトリカブトキタダケキンポウゲキタダケナズナキタダケヨモギなどが自生する。キタダケソウ(環境省の絶滅危惧Ⅱ類)と共に、絶滅が危惧されている高山植物にタカネマンテマ(環境省の絶滅危惧ⅠA類)がある[37]。北岳の名を冠し保護が盛んに叫ばれているキタダケソウよりも深刻な状態にあり、盗掘などが原因で個体数が減少している[37]。2010年では100株以下に数を減らしていると考えられている[37]

登山道周辺の高山植物

各登山道周辺では以下の種が分布している[38][39]

ハイマツ キタダケソウ チョウノスケソウ ハクサンイチゲ ミヤマハナシノブ ミヤマキンポウゲ

「キタダケ」を冠する和名の種のレッドリスト

山域には10種以上の「キタダケ」を冠する和名の種が自生している[40]。多くの種は環境省や山梨県[41]など各県のレッドリストに指定されている[42]

  • 絶滅危惧I A類(CR)の種
    • 環境省 - キタダケイチゴツナギ、キタダケキンポウゲ、キタダケデンダ、キタダケトリカブト
    • 山梨県 - キタダケイチゴツナギ、キタダケキンポウゲ、キタダケデンダ、キタダケトラノオ、キタダケトリカブト、キタダケヨモギ
  • 絶滅危惧I B類(EN)の種
    • 環境省 - キタダケカニツリ、キタダケナズナ、キタダケヨモギ
    • 山梨県 - キタダケカニツリ、キタダケソウ、キタダケナズナ
  • 絶滅危惧II類(VU)の種
    • 環境省 - キタダケソウ、キタダケトラノオ
  • 準絶滅危惧(NT)の種
    • 環境省 - キタダケオドリコソウ

ニホンジカによる食害調査報告

山梨県は2008年度から白峰三山周辺で、ニホンジカの食害による被害の調査を行っている[43]。2008年度の調査では、特に草すべり上部で多くの獣道が見られた[43]。こうした調査を受け、2009年度に環境省は南アルプス国立公園高山植物等保全対策検討会を設置し、この検討会にて「南アルプス国立公園及び隣接する地域における高山植物等保全対策基本計画」を策定した[43]。この計画に基づき2010年度から本格的な調査や対策が行われた[43]

北岳の動物

稜線上のハイマツ帯にはライチョウ[44]ホシガラスイワヒバリなどが生息し、山梨県の絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定されている[41]。山腹の1000 mから2600 m付近には特別天然記念物であるニホンカモシカが生息している[13]ホンドオコジョも生息し、岩の隙間を住処としている[44]。また、前述のシカの他にニホンザルも高山帯に進出して食害を引き起こしている[44]。気温の高い夏の間を稜線付近で過ごしながら高山植物を食み、高山植物が減り気温が低くなる8月下旬に稜線付近から下りる、という行動が観察されている[44]

ライチョウ ホシガラス イワヒバリ ニホンカモシカ ニホンジカ

注釈

  1. ^ 日本で二番目に高い山を知らないことを前提として、1番目にならないと意味がないことに例えられる。また、その際に北岳の名称が出ないことすらある。
  2. ^ 深田久弥は『日本百名山』中で、アサヨ峰方面からの北岳の山容を「惚れ惚れするくらい高等な美しさの絶品」と表現している。

出典

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