ベリリウム
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用途
ベリリウムはおもに合金の硬化剤として利用され、その代表的なものにベリリウム銅合金がある。また、非常に強い曲げ強さ、熱的安定性および熱伝導率の高さ、金属としては比較的低い密度などの物理的性質を利用して、高速航空機やミサイル、宇宙船、通信衛星などの軍事産業や航空宇宙産業において構造部材として用いられる。ベリリウムは低密度かつ原子量が小さいためX線やその他電離放射線に対して透過性を示し、その特性を利用してX線装置や粒子物理学の試験におけるX線透過窓として用いられる。
ベリリウムの用途には、その物理的性質を利用したX線装置や構造材、鏡(ベリリウムミラー)、合金材料、音響材料としての用途、磁気的性質を利用した工具製造、電子物性を利用した電子材料、核的性質を利用した中性子源や、ベリリウム鉱石の外観の美しさを利用した宝石としての用途が挙げられる。この中には核兵器やミサイル、射撃管制装置などの軍事的用途も含まれ、そのような分野に関する詳細な情報を入手することは難しい[82]。また、ベリリウムの毒性により、過去に用いられていた蛍光材料としての用途はすでにほかの代替材料に置き換えられており、ベリリウム銅合金なども代替材料の開発が進められている。
X線透過窓
ベリリウムは原子番号が小さく電子の数が少ないため、X線に対する透過率が非常に高い。そのため、X線源やビームライン、X線望遠鏡などの検出器用の窓に用いられる。この用途においては、X線像に不要な像が写り込むことを回避するためにベリリウムの純度と清潔さがもっとも要求される。また、X線探知機のX線放射窓としてもベリリウムの薄膜が用いられている。これは、ベリリウムのX線吸収率が非常に低いことによって、高強度のシンクロトロン放射光に典型的な低エネルギーX線に起因する熱の影響を最小限に留めることができるためである。さらに、シンクロトロンによる放射線試験のための真空気密窓およびビームチューブの素材にはベリリウムのみが用いられている。ほかにも、エネルギー分散型X線分析などのさまざまなX線を利用した分析機器においては、ベリリウム製のサンプルホルダーが常用される。これは、ベリリウムから発生する特性X線や蛍光X線の有するエネルギーが100 eV以下と分析試料由来のX線と比較して非常に低く、試料の分析データに影響を与えないためである[10]。
ベリリウムはまた、素粒子物理学の実験装置において高エネルギー粒子を衝突させる場所周辺のビームラインを構築するための素材として用いられる。たとえば、大型ハドロン衝突型加速器の実験における主要な4つの検出器すべて(ALICE検出器、ATLAS検出器、CMS検出器、LHCb検出器)[83]やテバトロン、SLAC国立加速器研究所において用いられている。このような用途においてはベリリウムが持つさまざまな性質が効果的に働いている。すなわち、ベリリウムの原子番号の小ささに由来する高エネルギー粒子に対する透過性が比較的高いという性質や、ベリリウムの密度が低いという性質によって、粒子の衝突によって発生した生成物を重大な相互作用なしに周囲の検出器へと誘導することができる。また、ベリリウムは剛性が高いためベリリウムのパイプ内を非常に高真空にでき、残留した気体分子による相互作用を最小限にすることができる。さらに、ベリリウムは熱的に非常に安定しているため、絶対零度よりわずかに高い程度の極低温においても正常に機能することができる。そのうえ、ベリリウムの反磁性を有する性質によって、粒子線を収束させて検出器まで導くために用いられる複雑な多極電磁石システムへの干渉を防ぐことができる[84]。
機械的用途
ベリリウムは剛性が大きく、軽く、広い温度範囲における寸法安定性を有しているため、防衛産業や航空宇宙産業において軽量な構造部材として、たとえば、高速航空機やミサイル、宇宙船、通信衛星などに用いられる。液体燃料ロケットには高純度ベリリウムのロケットエンジンノズルが用いられている[85][86]。また、少数ではあるものの自転車のフレームにも用いられている[87]。また、ベリリウムは硬く、融点が高く、さらに非常に優れたヒートシンク性能を有しているため、軍用機やレース車両のブレーキディスクに用いられていたが、環境への配慮のため代替材料が用いられている[10][88]。
ベリリウムは優れた弾性剛性を有しているため、ジャイロスコープによる慣性航法装置や光学系のための支持構造物などの精密機器にも利用される[10]。
なお、ベリリウムでばねを作った場合、200億回以上の衝撃に耐えることができる。
ベリリウムミラー
ベリリウムミラーは、気象衛星のような低重量および長期間の寸法安定性が重要とされる用途に対する大面積の鏡(しばしばハニカムミラー)に用いられる。たとえば、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡はベリリウム製であり[89]、同様の理由でスピッツァー宇宙望遠鏡もベリリウム製の反射望遠鏡が用いられている[90]。
また、より小さなベリリウムミラーは光学的な制御システムや射撃管制装置に用いられる。たとえば、ドイツの主力戦車であるレオパルト1やレオパルト2に用いられている[91]。これらのシステムには鏡の非常に迅速な動きが要求されるため、ベリリウムの低重量かつ高剛性な性質が必要とされる。通常このベリリウムミラーは、光学的仕上げ材による研磨をより容易に行えるように無電解ニッケルめっきによって被覆される。しかしながら極低温条件で用いる場合などには、熱膨張率の違いによって被覆材に歪みが生じてしまうため、このような用途においては被覆材を用いずに直接磨き上げられる[10]。
磁気的用途
機雷などの爆発物は磁気に反応して爆発する磁気信管を一般的に備えているため、軍による機雷の除去作業では磁性を持たないベリリウムやその合金から作られる器具が用いられる[92]。それらはまた、強い磁場を発生させる核磁気共鳴画像法(MRI)の機械の近くで用いられるメンテナンス器具や建設材料にも用いられる[93]。無線通信や強力なレーダー(通常は軍用)の分野においては、非常に磁気の強いクライストロン (Klystron) やマグネトロン、進行波管などの高レベルなマイクロ波を発生させるための送信機が使われるため、それらを調整するためにもまたベリリウム製の手工具が用いられる[94]。
音響材料
ベリリウムは低質量かつ高剛性である。このため、音の伝導率はおよそ12.9 km/sと高い。ベリリウムのこの物性を利用して、ツイーター(高音域スピーカー)の振動板としておもにドーム型に成形し使用される。しかしながら、ベリリウムはしばしばチタン以上に高価であり、その脆性の高さにより成形が困難である。また処置を誤れば製品の毒性を封印できないため、ベリリウム製のツイーターはハイエンドな家庭用や業務用オーディオ、Public Addressなどの用途に限られている[95][96][97]。高音域スピーカーの振動板としての使用例としては、ヤマハ[98]・パイオニア[99]などの音響機器メーカーの製品がある。それ以外ではヤマハ・パイオニア・オーディオテクニカ・グレース製ピックアップ・カートリッジのカンチレバーに用いられた例がある[100]。また、その熱伝導率のよさから、セラミック送信管(アイマック社製、eimac8873)の本体および純正放熱用熱伝導体として酸化ベリリウムが採用された例がある[101]。ベリリウムはほかの金属との合金としても頻繁に利用されるが、その合金組成に明記されないこともある[102]。
核物性の利用
ベリリウムの薄いプレートやホイールは、しばしばテラー・ウラム型のような熱核爆弾において、核融合燃料に「点火」するためのトリガーである第一段階の核分裂爆弾を囲うプルトニウムピットの最外層として用いられる。このようなベリリウムの層は、239Puを爆縮させるための良好な核反応促進材であり、初期の実験的な原子炉において中性子反射減速材として利用されていたように良好な中性子反射体でもある[103]。
ベリリウムはまた、比較的少ない中性子を必要とする原子炉規模以下の実験用途において、一般的に中性子源として用いられる。この目的のための9Beターゲット材は、210Poや226Ra、239Pu、241Amなどの放射性同位体から放出される高エネルギーなアルファ粒子を衝突させることで中性子が取り出される。このときに起こる核反応によって、9Beは12Cになり、遊離した中性子はアルファ粒子が移動するのと同じ方向へ放出される。ベリリウムはそのような中性子源として、urchinと呼ばれる中性子点火器として初期の原子爆弾にも利用されていた[103]。
ベリリウムは欧州連合のトーラス共同研究施設における核融合研究所においても利用されており、より高度なITERにおいてプラズマに直接接する部分の素材としても利用されている[104]。ベリリウムはまた、その機械的、化学的、核的な物性の組み合わせのよさから、核燃料棒の被覆素材としての利用も提案されている[10]。フッ化ベリリウムは、溶融塩原子炉設計の多くの仮定において、溶媒、減速材および冷却材としての使用が想定されている、共晶塩であるフッ化リチウムベリリウムを構成する塩のひとつである[105]。
電子材料
ベリリウムはIII-V族半導体においてP型半導体のドーパントである。それは、分子線エピタキシー法(MBE)によって製造されるヒ化ガリウムやヒ化アルミニウムガリウム、ヒ化インジウムガリウム、ヒ化インジウムアルミニウムのような素材において広く用いられている[106]。クロス圧延されたベリリウムのシートはプリント基板への表面実装における優れた構造支持体である。電子材料におけるベリリウムの重要な用途は、構造支持のみならずヒートシンク素材としての用途がある。この用途においては、アルミナおよびポリイミドガラス基盤と調和した熱膨張率が必要とされる。これらの電子的用途のために特別に設計されたベリリウム-酸化ベリリウム複合材料は「E-Material」と呼ばれ、さまざまな基盤素材に合わせて熱膨張率を調整できる利点がある[10]。
電気絶縁性および優れた熱伝導率、高い耐久性、硬さ、非常に高い融点という複数の特性が要求されるような多くの用途において、酸化ベリリウムが利用される。酸化ベリリウムは、電気通信のための無線周波送信機におけるパワートランジスタの絶縁基盤として多用される。酸化ベリリウムはまた、酸化ウランの核燃料ペレットにおいて熱伝導性を向上させるための用途が検討されている[107]。ベリリウム化合物は蛍光灯にも用いられていたが、ベリリウムを用いた蛍光灯の製造工場で働く労働者にベリリウム中毒が発症したため、この用途でのベリリウムの利用は中止された[108]。
宝石
ベリリウム鉱物である緑柱石のうち、状態のいいものは宝石として利用される[10][109][110]。緑柱石由来の宝石としては、不純物としてクロムを含み濃い緑色を呈するエメラルド、2価の鉄を含み水色を呈するアクアマリン、3価の鉄を含み黄色を呈するゴールデンベリル、マンガンを含むレッドベリルやモルガナイトなどがある[111][112]。
同じくベリリウム鉱物である金緑石からなる宝石には、宝石の表面に猫の目のような細い光の筋が見えるキャッツアイ効果を示す猫目石や、光源の種類によって見える色が変化する変色効果を示すアレキサンドライトといった特殊な効果を示すものがあり、キャッツアイ効果と変色効果を併せ持つものも存在する[113]。アレキサンドライトの赤紫色は不純物として含まれる鉄によるものである。
合金
銅(Cu)に0.15–2.0 %程度を混ぜてベリリウム銅合金として利用される。銅よりもはるかに強く、純銅に近い良好な電気伝導性がある。膨張率はステンレス鋼や鋼に近い。ゆっくり変化する磁界に対し高い透磁率をもつ[114]。銅合金の中でも優れた機械的強度を持っており、電気回路のコネクタなどで使われるばねの材料に用いられる[115]。また、磁化しにくい、打撃を受けても火花が出ない特徴を持つ[116]ことから、石油化学工業などの爆発雰囲気の中で使用する防爆工具に安全保持上用いることもある。ベリリウム銅合金はまた、Jason pistolsと呼ばれる船から錆やペンキをはぎ取るのに用いられる針状の器具にも用いられる[117]。また、銅の代わりにニッケルを用いた合金も同様に利用される[118]。ベリリウム銅合金はベリリウムの持つ毒性のために代替材料の開発が進められており、実用化されているものもある[119][120][121]。
また、アルミベリリウム合金も軽量かつ強度が高い特徴があり、F1レーシングカーの部品(安全性の観点から2004年以降は使用禁止)や航空機の部品にも使用されている[122]。
堆積学的履歴解析
堆積学分野では同位体の10Beおよび7Beと鉛の同位体210Pbの存在比率により、地層の堆積物の輸送がどのようなイベントで生じたのか、つまり「ゆっくりと安定した堆積なのか」「河川の氾濫や洪水、嵐による急激な堆積なのか」などを調べることが可能である[123]。
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