ヘルメース ヘルメースの概要

ヘルメース

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/06 21:06 UTC 版)

ヘルメース
Ἑρμῆς
伝令神, 雄弁と計略の神
雄弁の神(ロギオス)としてのヘルメース像。紀元前5世紀のギリシアの原物を摸した、紀元前1世紀後葉から紀元2世紀前葉のローマの大理石像。
ローマ国立博物館所蔵。
信仰の中心地 アルカディア
住処 オリュムポス
シンボル ペタソス, ケーリュケイオン
ゼウス, マイア
兄弟 アテーナー, アポローン, アルテミス, アレース, ヘーパイストス, ディオニューソス, エイレイテュイア, ヘーベー
子供 パーン, ヘルマプロディートス, アウトリュコス, エウドーロス
ローマ神話 メルクリウス
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オリュンポス十二神の一人。神々の伝令使、とりわけゼウスの使いであり、旅人商人などの守護神である[1]流れ(flow)[2]万物流転(flux)の神とも言われており[3][4]、それは例えば流通商品貨幣[2]流浪[2]液体水銀[2]転換解釈ヘルメーネウティコス[2]ひねり創意工夫などとされる[3]

ヘルメースは「商業盗賊雄弁科学の神[5]、「科学・弁舌などの神」[6]、「神々の使者」などとされており[6]、また彼が司るものは「学術」・「発明」・「体育」・「旅人」・「の群れ」・「死者の魂」など[7]。ヘルメースは錬金術では水銀占星術では水星を指す[8]カードゥーケウスという超自然的な杖を持っており[9]、これを印として冥界地上世界・天界を往復する[10]

ヘルメースは両性具有の神・超性親子神母子神)とも関連付けられている[11][注釈 1]ヘレニズム時代から複数の神々と同一視され、「至高の者」ヘルメース、すなわちヘルメース・トリスメギストスと見なされるようになった[13]。以来、「聖なる救済者化身」とされ[13]学芸通過儀礼[13]医学をも司るとされた[14][注釈 2]。「ヘルメースの」(hermetic art)は錬金術を意味し[15]中世ヨーロッパではヘルメース哲学は、錬金術や医学伝統などと合わさり広まった[16]

その他に境界・体育技能・策略を司り、夢と眠りの神、死出の旅路の案内者などとも言われ、多面的な性格を持つ神である。幸運と富を司り、狡知に富み詐術に長けた計略の神、早足で駆ける者、牧畜・賭博・交通・道路・市場・競技などの神であるとともに、雄弁と音楽の神であり、竪琴・笛・数・アルファベット・天文学・度量衡などを発明し、火の起こし方を発見した知恵者とされた。プロメーテウスと並んでギリシア神話のトリックスター的存在であり、文化英雄としての面を有する。その聖鳥は朱鷺および雄鶏


注釈

  1. ^ 例えば『ギリシア詞華集(Anthologia Graeca ad Fidem Codices)』II巻では、以下の記述がある[12]
    男にとってわたしはヘルメスであり、女にたいしてはアフロディテとして姿をみせる。[12]
  2. ^ 医学博士かつ医学史学者であるウォルター・J・フリードランダーの学術書によると、古来のヘルメース自身と医学との繋がりは、さほど強くなかった[14]。その繋がりはヘレニズム時代で強化され、医学と関連深い「(ヘルメース)トート」が「ヘルメース・トリスメギストス」と見なされるようになった[14]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w マイケル・グラント、ジョン・ヘイゼル『ギリシア・ローマ神話事典』大修館書店
  2. ^ a b c d e Grassi 2022, p. 102.
  3. ^ a b Bungard 2009, p. 2.
  4. ^ EDP 2023a, p. 「万物流転」.
  5. ^ 瀬戸 & 投野 2023, p. 「mercury」.
  6. ^ a b Weblio 2022, p. 「Hermes」.
  7. ^ 竹林 2002, p. 1150.
  8. ^ 平凡社 2022, p. 「ヘルメス」.
  9. ^ a b 秋山 2009b, pp. 359–360.
  10. ^ a b 秋山 2009a, p. 470.
  11. ^ キャンベル 2004, pp. 176–177.
  12. ^ a b キャンベル 2004, p. 248.
  13. ^ a b c キャンベル 2004, p. 230.
  14. ^ a b c Friedlander 1992, p. 41.
  15. ^ EDP 2023b, p. 「錬金術」.
  16. ^ 米田 2022, p. 「ヘルメス・トリスメギストス」.
  17. ^ 呉茂一『ギリシア神話(上)』新潮社〈新潮文庫〉、昭和54年、233頁。
  18. ^ a b c d e f フェリックス・ギラン『ギリシア神話』中島健訳、青土社、1991年、107-118頁。
  19. ^ a b 呉茂一『ギリシア神話(上)』新潮社〈新潮文庫〉、昭和54年、232頁。
  20. ^ 沓掛良彦『ホメーロスの諸神讃歌』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2004年、274頁。
  21. ^ ミルチア・エリアーデ『世界宗教史2』松村一男訳、筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2000年、148頁。
  22. ^ 沓掛良彦『ホメーロスの諸神讃歌』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2004年、275頁。
  23. ^ アントワーヌ・フェーブル「ヘルメティズム」『エリアーデ・オカルト事典』法蔵館、2002年、103頁。
  24. ^ セルジュ・ユタン『錬金術』有田忠郎訳、白水社、1972年、44頁。
  25. ^ Lipsitt 2017, p. 413.
  26. ^ a b 柴田 2009, p. 635.


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