バチカン
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国際関係
バチカン市国が成立した1929年以降、国際法上の主権国家となったことにあわせてバチカンの外交使節が各国に派遣され、同時に各国の外交使節を受け入れるようになった。2011年現在、バチカンは174カ国と国際連合およびマルタ騎士団の特命全権大使を受け入れており、179の国と地域に大使あるいは外交使節を派遣している[6]。
正式な外交関係を維持しているのはバチカン市国ではなくローマ教皇庁である。
現在、教皇庁は 184 の主権国家と外交関係を維持しており、教皇庁が関係を確立した最後の国は、2023年のオマーンとなっている。
一方、前述のように事実上イタリアとの国境管理がされていないことに加え、狭いバチカン市国内では各国が大使館を構えるだけの敷地が現実的に取れないという事情もあり、バチカンと外交関係を有するほとんどの国は国内に大使館を設置せず、ローマの在イタリア大使館がバチカンを兼務している。ただし、イタリアと外交関係を有しない中華民国はその例外としてバチカン国内に大使館を設置している[13]。
日本
日本がバチカンと正式な外交関係を樹立したのは第二次世界大戦中の1942年で、このとき相互に公使館を設置したが、戦後連合国軍の占領下で一旦引き上げて、1952年に再設置した。日本は1958年に駐バチカン日本公使館を大使館に格上げし(バチカン側が駐日ローマ法王庁公使館を大使館に格上げしたのは1966年)[14]現在に至っている。
日本国大使館(正式名称:在バチカン日本国大使館)は隣国イタリア・ローマにおかれている(なお、バチカンと外交関係を有する国家のうち約100カ国は兼轄であり、常駐の特命全権大使を派遣しているのは、日本を含めて80カ国弱である)。なお、東京都にあるバチカン大使館の正式名称は「ローマ法王庁大使館(イタリア語: Nunzio apostolico in Giappone)」である。
イギリス
イギリスとは、ヘンリー8世の離婚問題、国王至上法によってイギリス国教会が設立されてからローマ教皇がイギリス王を破門するかたちで断絶が続いていた。以来、イギリス国王とローマ教皇は没交渉であったが1914年に交渉が回復した。バチカン市国が建国され、主権国家として外交関係が樹立されたのは1982年のヨハネ・パウロ2世のイギリス司牧の旅以降である。2010年にはベネディクト16世が国賓としてイギリスを訪問。その答礼として2014年にエリザベス2世、エジンバラ公フィリップがバチカンを訪問した。しかしベネディクト16世の頃は、彼の超保守的な思想やカトリック聖職者の性的虐待問題でイギリス国民が、次のフランシスコのときは彼がアルゼンチン出身であること、フォークランド諸島で紛争を抱えるイギリス政府が、態度を硬化させている。
ロシア
前身となるソビエト社会主義共和国連邦とはロシア革命以降外交関係を持っていなかったが、1990年3月15日に外交関係が樹立された。ソ連崩壊後、後継となるロシア連邦ではバチカン市国との外交関係を有していなかったことから、外交関係再設定への動きが進み、2009年12月3日に大統領ドミートリー・メドヴェージェフが、バチカン市国を訪問して教皇ベネディクト16世と会談を行い、国交が樹立された。翌年の2010年には正式に大使が交換されている。ウラジーミル・プーチンは大統領・首相として通算4度バチカンを訪れ、時の教皇と会談している。
キューバ
キューバは1935年に国交を樹立してから、キューバ革命後も関係が継続している。なお、キューバは社会主義者による革命が起きたにも関わらず国交断絶しなかった唯一の社会主義国である[15]。
外交関係の無い国
2011年時点で、バチカンと外交関係が樹立されていない国は16カ国である。主な国家としては、宗教の存在を否定する共産党の一党独裁国家で社会主義国の中華人民共和国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、ベトナム、ラオスと、イスラム国家のサウジアラビア、アフガニスタン、ソマリア、ブルネイなどがある。ただし同じイスラム国家でも首長国のアラブ首長国連邦や王制のヨルダン、イランなどとは外交関係がある。
中華人民共和国[16]は信教の自由がなく[17]、カトリック教会を政府の管理下に置き続ける上[18]、キリスト教関係者を逮捕、追放するなど弾圧を続けていること[19]を理由に、1949年10月1日の中華人民共和国の建国以来、国交を持っていない[20]。なお宗主国との条約の下で一国二制度の下、本土とは別制度が採られる香港とマカオの両司教区(カトリック香港教区およびカトリックマカオ教区)は、イギリスとポルトガルの植民地時代からローマ教皇庁の直接管轄であり、中華人民共和国政府の影響を受けていない本来のカトリックに属する。
国交はないものの、バチカンと中華人民共和国は「司教の任命権」の問題など多くの困難な問題を抱えながらも、外交関係の再設定を目指して水面下での協議を続けてきた。例えば1979年には、中華民国台北市派遣の外交官レベルを臨時代理大使に格下げし、中華人民共和国との関係改善への意欲を見せていた。2015年9月28日には、教皇フランシスコ自らが中華人民共和国政府との接触を認めており[21]、バチカンの国務長官ピエトロ・パロリンは中華人民共和国との国交樹立の意向を明言している[22]。2018年9月22日、バチカンと中華人民共和国は、長年対立していた司教の任命権を巡る協議について、中華人民共和国はローマ教皇の国内における地位を認める代わりに、バチカンは中華人民共和国が独自に任命した司教を認めるという内容で、暫定的な合意に達したと発表した。これに関して、バチカンと中華民国は、両国の外交関係には何ら影響を与えるものではないとそれぞれコメントしている。なお香港のカトリック香港教区は、1997年の香港返還後もローマ教皇庁の直轄教区である。
2020年2月14日には、ドイツのミュンヘンで王毅外務大臣とポール・リチャード・ギャラガー外務局長による初の外相会談が行われた。だが、中華人民共和国が共産主義国として、中国共産党の傘下にない宗教を規制するという問題は、何ら解決されないという現実がある。
また、バチカンからの「教皇使節」(Apostolic delegate)が、1932年に独立した満州国に派遣され、政府の式典などに参列していたが、「教皇使節」は現地のカトリック信徒のために派遣されるもので、外交的な意味を持たない。2022年現在でもベトナムなどのように、共産主義国でバチカンと外交関係を樹立していないにも関わらず、宗主国の関係上カトリック教徒が多いなど歴史的背景から教皇使節が派遣されている国々がある[23]。その証拠に教皇使節の派遣を管轄するのはバチカンにおいて宗教業務を担当する福音宣教省であって、外交を司る総理省ではない。
国際連合には、長らく「恒久的オブザーバー」という形式で代表を派遣していたが、2004年7月に、投票以外の全ての権利を持った代表となった。投票権を行使しないのは、政治的中立を維持するためであり、当時の国連バチカン代表であったチェレスティーノ・ミリオーレ大司教も「投票権を持たないことは、私たち自身の選択です」と語っている。
注釈
出典
- ^ 日本国外務省・バチカン(Vatican)基礎データ
- ^ イタリア政府観光局(ENIT)公式サイト「ヴァティカン市国」
- ^ バチカン市国基本法第一条
- ^ “バチカンが釈明、ワクチン接種拒否への解雇法令に批判集まる”. ロイター (2021年2月19日). 2021年2月21日閲覧。
- ^ 徳安茂『なぜローマ法王は世界を動かせるのか』PHP研究所、第1版第1刷、2017年3月1日。28-29頁。ISBN 978-4-569-83268-5。
- ^ a b バチカン 基礎データ 外務省
- ^ a b “外務省、「ローマ教皇」に呼称変更 安倍首相と25日に会談”. 毎日新聞 (2019年11月20日). 2019年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月23日閲覧。
- ^ “衆議院会議録情報 第196回国会 予算委員会 第9号”. kokkai.ndl.go.jp. 2018年7月11日閲覧。
- ^ “政府、「ローマ教皇」に呼称変更”. 時事通信 (2019年11月20日). 2019年11月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月23日閲覧。
- ^ “【おことわり】「ローマ教皇」に表記を変更します”. 産経新聞 (2019年11月22日). 2019年11月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月23日閲覧。
- ^ “「ローマ法王」が「ローマ教皇」に変更 政府発表で割れるメディアの対応”. J-CASTニュース (2019年11月22日). 2019年11月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月23日閲覧。
- ^ “【お知らせ】今後は「ローマ教皇」とお伝えします”. 日本放送協会 (2019年11月22日). 2019年11月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月23日閲覧。
- ^ 中華民国は、ヨーロッパ全域において外交関係を有する国が唯一バチカンのみであるため、同国のヨーロッパ全体の外交・政治活動の拠点ともなっている
- ^ NUNTIATURA APOSTOLICA IN IAPONIA ERIGITUR
- ^ “キューバ見つめて バチカン、50年の外交努力”. (2014年12月24日) 2014年12月25日閲覧。
- ^ “中国が初の政党白書 一党独裁の正当性強調”. 47ニュース. 共同通信 (共同通信社). (2007年11月15日). オリジナルの2013年12月24日時点におけるアーカイブ。 2013年12月23日閲覧。
- ^ “「中国政府は言論・宗教を抑圧」 米国が中国人権報告書発表”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2009年10月17日). オリジナルの2009年10月25日時点におけるアーカイブ。
- ^ “政府の教会統制策、バチカンの許可なく司祭叙階 - 中国”. AFPBB News (クリエイティヴ・リンク). (2006年5月3日)
- ^ Restriction and Suppression of Religious Freedom in China ボイス・オブ・アメリカ2006年5月17日
- ^ “バチカンとの国交樹立を妨げるもの - 中国”. AFPBB News (クリエイティヴ・リンク). (2006年3月26日)
- ^ “中国と協議 関係改善へ 法王、訪中の意向”. 毎日新聞. (2015年10月18日) 2016年9月22日閲覧。
- ^ “Vatican Sec of State hopes for improved diplomatic relations with China”. バチカン放送. (2016年8月27日) 2016年9月22日閲覧。
- ^ 上野景文『バチカンの聖と俗』、かまくら春秋社、2011、pp91-92
- ^ 「ビジュアルシリーズ 世界再発見1 フランス・南ヨーロッパ」p114 ベルテルスマン社、ミッチェル・ビーズリー社編 同朋舎出版 1992年5月20日第1版第1刷
- ^ “バチカン銀行の資金押収 「闇」の解明なるか”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2010年9月22日). オリジナルの2010年9月25日時点におけるアーカイブ。 2011年1月10日閲覧。
- ^ “バチカン、金融取引で資金洗浄か 監視局、6件を認定”. 朝日新聞. (2013年5月26日). オリジナルの2013年5月25日時点におけるアーカイブ。 2013年5月26日閲覧。
- ^ “バチカン銀行幹部を事実上の更迭 法王が経営透明化本腰”. 朝日新聞. (2013年7月2日). オリジナルの2013年7月5日時点におけるアーカイブ。 2013年8月21日閲覧。
- ^ バチカン市国国鉄 変わりダネ国際列車
- ^ デノーラ砂和子 (2008年10月31日). “天使が配達?!絵葉書送るならバチカン郵便局”. all about 2017年10月23日閲覧。バチカンの郵便ポストに手紙を投函するときは、うっかりイタリアの切手を貼らないように注意しましょう。
- ^ 辻田希世子 (2002年4月1日). “劣悪イタリア郵便事情の改善に 日本人が立ち上がった!”. Cafeglobe.com. カフェグローブ・ドット・コム. 2002年6月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年1月10日閲覧。
- ^ CIA - The World Factbook -- Holy See (Vatican City)
- ^ “El debut del equipo de fútbol femenino del Vaticano - Vatican News” (スペイン語). www.vaticannews.va (2019年5月27日). 2023年6月7日閲覧。
- ^ “Athletica Vaticana”. www.cultura.va. 2023年6月8日閲覧。
- ^ “La Santa Sede, nuevo miembro de la Unión Ciclista Internacional - Vatican News” (スペイン語). www.vaticannews.va (2021年10月28日). 2023年6月8日閲覧。
- ^ “Comunicado Prensa”. www.theologia.va. 2023年6月8日閲覧。
- ^ ReL (2023年1月28日). “La selección de críquet vaticana ya es oficial: seminaristas británicos, curas de India, Pakistán...” (スペイン語). https://www.religionenlibertad.com. 2023年6月8日閲覧。
- ^ “Argentina's Jorge Mario Bergoglio elected Pope Francis”. BBC (2013年3月14日). 2017年6月19日閲覧。
- ^ “Pope Francis, the pontiff of firsts, breaks with tradition”. CNN (2013年3月14日). 2017年6月19日閲覧。
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