タルパ 研究

タルパ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/16 21:18 UTC 版)

研究

メカニズム

人工知能研究者のカイ・ソタラは、2015年にヘルシンキ大学で開催されたカンファレンス「Toward a Science of Consciousness 2015」において、タルパは3つの要因の組み合わせにより生まれる可能性があるという仮説を提案した。

第一に、意識的思考は「現実性のシミュレータ」として機能しており、何かを想像することは、それを知覚することと本質的に同じプロセスであり、感覚情報は外部からの入力ではなく内部モデルから生成される(Hesslow 2002, Metzinger 2004)。第二に、我々の脳は、社会的相互作用を円滑にするために他者をモデル化し、その行動を予測する能力を持つように進化してきた。第三に、脳の予測符号化モデル英語版(Clark 2013)によると、行動と知覚・予測は密接に関連している。つまり、何かを行うことには、それを行うだろうと予測することが含まれており、脳はその予測を満たすために必要な行動を見つけるために後ろ向き推論を実行する。

これにより、作成したい人物の種類を想像し、その人物がさまざまな状況でどのように振る舞うのかを想像することから始める、タルパ作成プロセスが可能となる。このプロセスで作成された心的イメージは、想像された感覚情報と知覚された感覚情報を区別できない可能性がある、脳の人物モデリングモジュールによって拾われ、想像上の存在であるタルパのモデルが作られ始める。実践者は、タルパはときどき予期しないことを行うと報告しているが、これは、脳が後ろ向き推論を行い、タルパの想像された行動の考えられる「深い原因」を見つけ出した結果、他の帰結がシミュレートされることにより、タルパに予期せぬ行動を起こさせるためと説明できる可能性がある。最終的に、モデルと実践者のタルパを想像する力が十分に強くなると、自律したフィードバックループが発生する。すなわち、タルパのモデルがそれの行動の新しい予測を作成し、実際に起きているかのように経験され、その経験がモデルにフィードバックされることにより、新しい予測と行動が生み出されるのである。この時点までに、タルパは「メイン」の人格から独立し、別々に行動しているように経験される[25]

また彼は、タルパと類似した現象として、子供のイマジナリーフレンド解離性同一性障害、そしてフィクション作品の作家がよく経験する「独立した行為者の錯覚」(: illusion of independent agency)の3つを挙げている[25][26]。独立した行為者の錯覚は、フィクションのキャラクターがあたかも自分の意志を持って実在しているかのように感じ、そのキャラクターと(脳内で)会話や議論などができるようになる現象である[27]

2020年現在、タルパとの接触や内言英語版に関わる認知メカニズムと脳領域を特徴づけるために、MRIを使った研究がスタンフォード大学で進行中であり、被験者が募集されている[28]

精神障害との関連性

一般社会や医学界では、「複数の人格」(: multiple personalities、多重人格)があることは、一般的に精神障害の兆候であると考えられている。タルパマンサーは、解離性同一性障害統合失調症と混同されることが多いが、タルパを有していることは、どの精神障害の診断基準にも当てはまらない[6]。とはいえ、タルパコミュニティの人口の大多数が、何らかの精神障害を有していることが調査により判明している。2018年、サブレディットの「r/tulpas」が行った調査では、203名の回答者のうち、59%が抑うつ、44%が不安障害、28%がADHD、21%が自閉症、9%がPTSD、7%が双極性障害、6%がパーソナリティ障害と診断されたことがあると回答している[29]。141名のタルパマンサーを対象にサミュエル・ヴェイシエールが行った調査では、タルパマンサーの自閉症・ADD・ADHDの割合は一般集団よりも著しく高いことが判明した[23]。ヤコブ・J・イスラーが行った研究では、被験者の半数以上が何らかの精神障害、または神経発達障害英語版を有していることが判明した[6]。ヴェイシエールは、自閉症やADHDなどのグループは強い孤独感を抱いているため、タルパを作りたがる傾向にあるのではないかと推測している。実際に、精神障害と診断されたことのあるタルパマンサーの93.7%が、タルパを作成することによって症状が改善したと答えている[23]

Martin et al.(2020)は、タルパとホストのパーソナリティ特性英語版と関係満足度の研究を行った。そこでは、すべての被験者がタルパと全体的に良い関係を持っていると答えた。データ分析では、タルパとホストのパーソナリティは基本的に類似しており、パーソナリティ特性の各ドメインのスコアが二者共に低いことが関係満足度の高さと相関していることが分かった。しかし、脱抑制: disinhibition)においてホストがタルパよりも高いスコアを示した場合、より高い関係満足度が示されることが分かった。脱抑制の項目は、人間関係を作り、維持し、上手く機能する上で重要な能力に関する質問をするものであり、スコアが高いほどその領域で機能不全であることを示している。孤独感や社会的不安をタルパ作成の動機としてよく挙げるホストが脱抑制の領域で高いスコアを得たことから、人間関係や社会生活に影響を与える高レベルな機能障害を経験していることが必然的に理解される。したがって、そのようなケースでは、脱抑制の低いタルパが脱抑制の高いホストの苦闘・苦痛を和らげるようなコーピングメカニズム英語版(対処・適応メカニズム)としてタルパマンシーは機能している可能性があり、タルパとの相補的な関係がホストの生活の中で有益なメカニズムとして働いている可能性があると著者らは指摘した。これに加え、タルパマンシーは必ずしも精神障害を有していることを示さないとしつつも、ホストが他の形の精神障害を経験したことがタルパ作成の動機となり、タルパを使って精神障害に対処している可能性も指摘された。また、その保有者に利益を与えるという点で、タルパとイマジナリーフレンドの著しい類似性を著者らは認識したが、子供たちが自分のイマジナリーフレンドを「友達のふりをしたものである」と理解しているのに対し、タルパのホストらは、タルパを「自律的で意識を持った存在である」と理解しており、内在性よりも外在性(自分の内言や単なる想像の産物ではなく、実際に外部の他者と話しているように感じられるということ)が重視されているため、その点で区別されるとした[5]


注釈

  1. ^ アニー・ベサントチャールズ・W・レッドビーター『思いは生きている―想念形体 (神智学叢書)』田中恵美子訳、竜王文庫、1994年2月1日。ISBN 978-4897413136
  2. ^ a b アレクサンドラ・デビッドニール『チベット魔法の書―「秘教と魔術」永遠の今に癒される生き方を求めて』林陽訳、徳間書店、1997年8月1日。ISBN 978-4198607463原題は『Mystiques et magiciens du Tibet』。

出典

  1. ^ Campbell, Eileen; Brennan, J. H.; Holt-Underwood, Fran (1994). “Thoughtform”. Body, Mind & Spirit: A Dictionary of New Age Ideas, People, Places, and Terms (Revised ed.). Boston: C. E. Tuttle Company. ISBN 080483010X. https://archive.org/details/bodymindspiritdi00camp 
  2. ^ a b Thompson, Nathan (2014年9月3日). “The Internet's Newest Subculture Is All About Creating Imaginary Friends”. Vice. 2020年1月25日閲覧。
  3. ^ a b c Veissière, Samuel (2016), Amir Raz; Michael Lifshitz, eds., “Varieties of Tulpa Experiences: The Hypnotic Nature of Human Sociality, Personhood, and Interphenomenality”, Hypnosis and meditation: Towards an integrative science of conscious planes (Oxford University Press): pp. 55-74, https://www.researchgate.net/publication/278671032_Varieties_of_Tulpa_Experiences_The_Hypnotic_Nature_of_Human_Sociality_Personhood_and_Interphenomenality 
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  6. ^ a b c d e Isler, Jacob J. (2017). “Tulpas and Mental Health: A Study of Non-Traumagenic Plural Experiences”. Research in Psychology and Behavioral Sciences 5 (2): 36-44. doi:10.12691/rpbs-5-2-1. http://pubs.sciepub.com/rpbs/5/2/1/index.html. 
  7. ^ Fernyhough, Charles; Watson, Ashley; Bernini, Marco; Moseley, Peter; Alderson-Day, Ben (2019). “Imaginary Companions, Inner Speech, and Auditory Verbal Hallucinations: What Are the Relations?”. Front Psychol. doi:10.3389/fpsyg.2019.01665. PMID 31417448. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6682647/. 
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  9. ^ a b c d Mikles, Natasha L.; Laycock, Joseph P. (6 August 2015). “Tracking the Tulpa: Exploring the "Tibetan" Origins of a Contemporary Paranormal Idea”. Nova Religio: The Journal of Alternative and Emergent Religions 19 (1): 87–97. doi:10.1525/nr.2015.19.1.87. 
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  17. ^ a b c David-Neel, Alexandra; DʼArsonval, A. (2000). Magic and Mystery in Tibet. Escondido, California: Book Tree. ISBN 1585090972 
  18. ^ Marshall, Richard; Davis, Monte; Moolman, Valerie; Zappler, George (1982). Mysteries of the Unexplained (Reprint ed.). Pleasantville, NewYork: Reader's Digest Association. p. 176. ISBN 0895771462 
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  20. ^ T. M. Luhrmbann (2013年10月14日). “Conjuring Up Our Own Gods”. The New York Times. 2017年8月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年4月22日閲覧。
  21. ^ ふみふみこ『人工精霊タルパちゃん』講談社、2014年10月10日。ISBN 978-4063378016
  22. ^ ポックル『タルパxコンプレックス』、2014年1月9日。
  23. ^ a b c d Veissière, Samuel (2015). “Varieties of Tulpa Experiences: Sentient Imaginary Friends, Embodied Joint Attention, and Hypnotic Sociality in a Wired World”. somatosphere. http://somatosphere.net/2015/varieties-of-tulpa-experiences-sentient-imaginary-friends-embodied-joint-attention-and-hypnotic-sociality-in-a-wired-world.html/. 
  24. ^ a b Tulpa”. PsychonautWiki. 2021年9月11日閲覧。
  25. ^ a b Sotala, Kaj (2015), Sentient companions predicted and modeled into existence: explaining the tulpa phenomenon, Toward a Science of Consciousness 2015, オリジナルの2020年5月26日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20200526063536/https://stuff.kajsotala.fi/Papers/Tulpa.pdf 2020年5月26日閲覧。 
  26. ^ Sotala, Kaj. “TulpaTSC2015Talk.pdf”. kajsotala.fi. 2020年5月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年5月29日閲覧。
  27. ^ Taylor, Marjorie; Hodges, Sara D.; Kohányi, Adèle (2003). “The illusion of independent agency: do adult fiction writers experience their characters as having minds of their own?”. Imagination, Cognition, and Personality 22 (4). doi:10.2190/FTG3-Q9T0-7U26-5Q5X. 
  28. ^ Stanford Tulpa Study: My experience and looking for more participants : Tulpas”. Reddit (2019年8月13日). 2020年5月27日閲覧。
  29. ^ Tulpa Comunity Census 2018”. 2021年9月11日閲覧。


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