タルパ タルパの概要

タルパ

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語源

タルパ(: tulpa)の語源は、応身を意味するチベット語名詞化英語版された動詞 སྤྲུལ་པ (sprul pa, トゥルパ) である[9]。トゥルパは、「姿を変える」「変身する」という意味の動詞 སྤྲུལ (sprul, トゥル) に、動作主を表し名詞化する接尾辞 (pa, パ) が付与されたものである。トゥルパは、化身ラマ(応身)を意味する སྤྲུལ་སྐུ (sprul sku, トゥルク) または སྤྲུལ་པ་སྐུ (sprul pa sku, トゥルパク) と同義である[9][10]

歴史

20世紀

神智学と思念形態

アニー・ベサントチャールズ・W・レッドビーターの著書『Thought-Forms英語版』(1901年)より、「グノーの音楽」の思念形態。

20世紀神智学者たちは、トゥルクトゥルパなど、チベット仏教における応身の概念を神智学的に解釈し、「タルパ」(: tulpa)として神智学に取り入れ、「思念形態」(しねんけいたい、: thoughtform、想念形体や思念体とも呼ばれる)という概念と同一視した[9][10]。思念形態は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、神智学者のアニー・ベサントチャールズ・W・レッドビーターが提唱した神智学の概念である[11]。アニー・ベサントは、著書『Thought-Forms英語版』(1901年)[注 1]の中で、創造者の形をしている形態、物や人に似た形をしており、自然霊や死者によって魂を吹き込まれる可能性のある形態、アストラル界メンタル界に由来する、感情などの生得的性質を表す形態の3つに思念形態を分類している[11]。タルパについて書かれた最古の文献は、神智学者のアレクサンドラ・デビッドニール英語版の著書『チベットの神秘家と呪術師』(1929年)であり[9][注 2]、思念形態という用語が使われた最初期の事例は、ウォルター・エヴァンズ=ウェンツ英語版が翻訳した『チベット死者の書』(1927年)にも見られる[12]。ジョン・レイノルズは、ガラップ・ドルジェ英語版(妙楽金剛)の伝記の英訳に付した注釈の中で、タルパは「発現、顕現」であると定義した[13]。この概念は、西洋魔術の実践でも活用された[14][要ページ番号]

オカルティストのウィリアム・ウォーカー・アトキンソン英語版は、著書『Human Aura』(1912年)の中で、思念形態は人々の思考や感情から生成され、人々を取り囲むオーラから発せられる単純なエーテルのような物体であると説明した[15]。彼はさらに、著書『Clairvoyance and Occult Powers』(1916年)の中で、秘教の経験豊富な修行者が、オーラからアストラル投射として機能する思念形態を作り出す方法を詳説した。その思念形態は、それを投射している人のように見えたり見えなかったりするか、「覚醒時のアストラル感覚」を持つ人だけが見れる幻影であるとされる[16]

アレクサンドラ・デビッドニール

神智学者のアレクサンドラ・デビッドニール英語版は、20世紀のチベットで実際にそれらの神秘主義的実践を見たと主張した。彼女は、著書『チベットの神秘家と呪術師』(1929年)[注 2]の中で、タルパは「強力な凝念による魔術的形成物」であると説明した。「悟りを得た菩薩は、十種の神変不可思議を生み出す能力がある。しかし、魔術的形成物を生む力、トゥルク、あるいはそれほど長く持続せず具現化の程度が低いタルパ、そういったものは(菩薩のような)神秘的な高位の存在だけのものではない。どんな人間、神霊(デーヴァ)、あるいは鬼類でも、それを持っているということはあり得ることだ。その違いはただ力の度合いによるものであって、集中力と心そのものの質に左右されるのだ」と彼女は語っている[17]:331。また、タルパが自分自身の心を持つようになる能力について次のように述べた。「ひとたびタルパが現実存在として振る舞うのに十分な生命力を与えられると、創造者の支配から逸脱する傾向にある。チベットのオカルティスト(行者)の言うには、身体が完成して親から離れて生きることができるようになった子どもが母胎から出ていくように、これはほとんど自動的に起こるものである[17]:283」。彼女は愉快なフライアー・タック英語版(ロビン・フッドの仲間の陽気な修道士)のような僧侶のイメージでタルパを創ったが、このような現象が起きたためラマに頼み込んで消滅させたということがあった[18]。彼女は、自分が作った思念形態を他者も見ることができるかもしれないと訴えたが、後に自分の体験が錯覚であった可能性に言及し、「私は自分自身の幻を作り上げてしまっていたのかもしれない」と語った[17]:176

21世紀

タルパという概念は、欧米では1990年代後半から2000年代にかけてテレビで人気を博し、フィクション作品を通じて普及・世俗化した[4]。2009年以降には、4chanReddit[19]などのウェブサイト上でタルパに特化したコミュニティが誕生した。これらのコミュニティの人々は、自らを「タルパマンサー」(: tulpamancers)と総称しており、他のタルパマンサーのガイドやサポートを行っている。これらのコミュニティは、マイリトルポニーの成人ファンたちが、マイリトルポニーのTVシリーズのキャラクターを基にしたタルパのためのフォーラムを作成した際に人気が増した[2]。そのファンらは、イマジナリーフレンド(タルパ)を作成するために瞑想明晰夢のテクニックを使用することを試みた[3][20]

マギル大学助教授のサミュエル・ヴェイシエールは、このコミュニティの人口統計的・社会的・心理的プロファイルを調査した。それによると、これらのコミュニティのアクティブユーザー数は数百人単位であり、現実での直接の会合はほとんど行われておらず、「タルパマンサー」と名乗るこれらの個人は、タルパを「実在するか、あるいは何らかの形で実在する人物」として扱っているという。彼らは「主に都市部の中産階級で、思春期・若年成人層」に属しており、「(タルパを作る)動機として、孤独感や社会的不安を挙げている」という。また、回答者の93.7%が、タルパを作成することによって新たな非日常的感覚的体験がもたらされ、「自分の状態が良くなった」と述べた。一部にはタルパと性的・恋愛的関係を持つ人もいるが、賛否両論がありタブー視される傾向にある。調査では、118名の回答者のうち、76.5%がタルパに関する心理学的・神経科学的説明を支持しており、8.5%が形而上学的説明、14%がその他の説明を支持していることが判明した[3]

日本国内では、タルパを友人として親しんだり[21]、その原点を探る[22]という新たな方向性による著作が現れ始めた。

特徴

タルパは、作者とコミュニケーションをとることができるが、このコミュニケーションは、明らかに自分のものではない思考を感知する「エイリアン・フィーリング」(: alien feeling、異質な感覚)で行われることがあるという。一部のタルパマンサーは、幻聴・幻視・幻触・幻嗅など、自分のタルパの幻覚を体験することがある。幻覚を体験する作者は、自分のタルパを見たり、聞いたり、触れたりできる[23][6]

一部のタルパマンサーは、自分のタルパがいる「マインドスケープ」(: mindscape)や「ワンダーランド」(: wonderland)といった、心像の風景を視覚化している。マインドスケープの視覚化は、作者には白昼夢ヒプナゴギア、あるいは明晰夢のように感じられ、タルパはマインドスケープ内を探索でき、これによって作者はタルパと交流することが可能となる[23][24]

憑依(: possession)は、タルパが作者の身体をコントロールすることである。憑依を行うと、作者は解離を体験し、タルパは作者の身体の一部、あるいは全体を一人で、または作者と共にコントロールする。憑依は瞑想によって行われ、また、作者の許可がなければタルパは憑依を行えないという[6][24]


注釈

  1. ^ アニー・ベサントチャールズ・W・レッドビーター『思いは生きている―想念形体 (神智学叢書)』田中恵美子訳、竜王文庫、1994年2月1日。ISBN 978-4897413136
  2. ^ a b アレクサンドラ・デビッドニール『チベット魔法の書―「秘教と魔術」永遠の今に癒される生き方を求めて』林陽訳、徳間書店、1997年8月1日。ISBN 978-4198607463原題は『Mystiques et magiciens du Tibet』。

出典

  1. ^ Campbell, Eileen; Brennan, J. H.; Holt-Underwood, Fran (1994). “Thoughtform”. Body, Mind & Spirit: A Dictionary of New Age Ideas, People, Places, and Terms (Revised ed.). Boston: C. E. Tuttle Company. ISBN 080483010X. https://archive.org/details/bodymindspiritdi00camp 
  2. ^ a b Thompson, Nathan (2014年9月3日). “The Internet's Newest Subculture Is All About Creating Imaginary Friends”. Vice. 2020年1月25日閲覧。
  3. ^ a b c Veissière, Samuel (2016), Amir Raz; Michael Lifshitz, eds., “Varieties of Tulpa Experiences: The Hypnotic Nature of Human Sociality, Personhood, and Interphenomenality”, Hypnosis and meditation: Towards an integrative science of conscious planes (Oxford University Press): pp. 55-74, https://www.researchgate.net/publication/278671032_Varieties_of_Tulpa_Experiences_The_Hypnotic_Nature_of_Human_Sociality_Personhood_and_Interphenomenality 
  4. ^ a b Paranormalizing the Popular through the Tibetan Tulpa: Or what the next Dalai Lama, the X Files and Affect Theory (might) have in common”. Savage Minds (2016年2月13日). 2017年7月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年4月22日閲覧。
  5. ^ a b c Martin, Anna; Thompson, Bailey; Lancaster, Steven (2020), Personality Characteristics of Tulpamancers and Their Tulpas, PsyArXiv, doi:10.31234/osf.io/5t3xk, https://psyarxiv.com/5t3xk/ 
  6. ^ a b c d e Isler, Jacob J. (2017). “Tulpas and Mental Health: A Study of Non-Traumagenic Plural Experiences”. Research in Psychology and Behavioral Sciences 5 (2): 36-44. doi:10.12691/rpbs-5-2-1. http://pubs.sciepub.com/rpbs/5/2/1/index.html. 
  7. ^ Fernyhough, Charles; Watson, Ashley; Bernini, Marco; Moseley, Peter; Alderson-Day, Ben (2019). “Imaginary Companions, Inner Speech, and Auditory Verbal Hallucinations: What Are the Relations?”. Front Psychol. doi:10.3389/fpsyg.2019.01665. PMID 31417448. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6682647/. 
  8. ^ 大人になっても想像上の友人を生み出す「タルパマンサー」とは?”. GIGAZINE (2021年1月19日). 2021年9月13日閲覧。
  9. ^ a b c d Mikles, Natasha L.; Laycock, Joseph P. (6 August 2015). “Tracking the Tulpa: Exploring the "Tibetan" Origins of a Contemporary Paranormal Idea”. Nova Religio: The Journal of Alternative and Emergent Religions 19 (1): 87–97. doi:10.1525/nr.2015.19.1.87. 
  10. ^ a b Tulpa: Not What You Think”. Blue Flame Magick. 2019年9月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年5月26日閲覧。
  11. ^ a b Besant, Annie; Leadbeater, C. W. (1901). “Three classes of thought-forms”. Thought-Forms. The Theosophical Publishing House. オリジナルの2016年12月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161210191202/http://www.gutenberg.org/files/16269/16269-h/16269-h.htm 2017年4月26日閲覧。 
  12. ^ Evans-Wentz, W.T. (2000). The Tibetan Book of the Dead: Or The After-Death Experiences on the Bardo Plane, according to Lāma Kazi Dawa-Samdup's English Rendering. New York: Oxford University Press. pp. 29-32, 103, 123, 125. ISBN 0198030517 
  13. ^ Rinpoche, Dza Patrul; Norbu, Chogyal N.; Reynolds, John M. (1996). The Golden Letters: The Three Statements of Garab Dorje, the First Teacher of Dzogchen (1st ed.). Ithaca, New York: Snow Lion Publications. p. 350. ISBN 9781559390507 
  14. ^ Cunningham, David Michael; Ellwood, Taylor; Wagener, Amanda R. (2003). Creating Magickal Entities: A Complete Guide to Entity Creation (1st ed.). Perrysburg, Ohio: Egregore Publishing. ISBN 9781932517446 
  15. ^ Panchadsi, Swami (1912). “Thought Form”. The Human Aura: Astral Colors and Thought Forms. Yoga Publication Society. pp. 47–54. オリジナルの2016年10月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20161003151932/https://borderlandsciences.org/project/aura/ref/panchadasi/ch6.html 2017年4月26日閲覧。 
  16. ^ Panchadsi, Swami (1916). “Strange astral phenomena”. Clairvoyance and Occult Powers. オリジナルの2009年6月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090626055033/http://www.gutenberg.org/files/12480/12480.txt 2017年4月26日閲覧。 
  17. ^ a b c David-Neel, Alexandra; DʼArsonval, A. (2000). Magic and Mystery in Tibet. Escondido, California: Book Tree. ISBN 1585090972 
  18. ^ Marshall, Richard; Davis, Monte; Moolman, Valerie; Zappler, George (1982). Mysteries of the Unexplained (Reprint ed.). Pleasantville, NewYork: Reader's Digest Association. p. 176. ISBN 0895771462 
  19. ^ Tulpas: Intelligent companions imagined into existence”. 2020年4月29日閲覧。
  20. ^ T. M. Luhrmbann (2013年10月14日). “Conjuring Up Our Own Gods”. The New York Times. 2017年8月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年4月22日閲覧。
  21. ^ ふみふみこ『人工精霊タルパちゃん』講談社、2014年10月10日。ISBN 978-4063378016
  22. ^ ポックル『タルパxコンプレックス』、2014年1月9日。
  23. ^ a b c d Veissière, Samuel (2015). “Varieties of Tulpa Experiences: Sentient Imaginary Friends, Embodied Joint Attention, and Hypnotic Sociality in a Wired World”. somatosphere. http://somatosphere.net/2015/varieties-of-tulpa-experiences-sentient-imaginary-friends-embodied-joint-attention-and-hypnotic-sociality-in-a-wired-world.html/. 
  24. ^ a b Tulpa”. PsychonautWiki. 2021年9月11日閲覧。
  25. ^ a b Sotala, Kaj (2015), Sentient companions predicted and modeled into existence: explaining the tulpa phenomenon, Toward a Science of Consciousness 2015, オリジナルの2020年5月26日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20200526063536/https://stuff.kajsotala.fi/Papers/Tulpa.pdf 2020年5月26日閲覧。 
  26. ^ Sotala, Kaj. “TulpaTSC2015Talk.pdf”. kajsotala.fi. 2020年5月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年5月29日閲覧。
  27. ^ Taylor, Marjorie; Hodges, Sara D.; Kohányi, Adèle (2003). “The illusion of independent agency: do adult fiction writers experience their characters as having minds of their own?”. Imagination, Cognition, and Personality 22 (4). doi:10.2190/FTG3-Q9T0-7U26-5Q5X. 
  28. ^ Stanford Tulpa Study: My experience and looking for more participants : Tulpas”. Reddit (2019年8月13日). 2020年5月27日閲覧。
  29. ^ Tulpa Comunity Census 2018”. 2021年9月11日閲覧。


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