慣性の法則
「慣性の法則」とは、「あらゆる物体は、外力が加わらない限り、等速運動をしている物体は等速運動を続け、静止した物体は静止したままである」という物理的法則の通称である。ニュートンが確立した3つの「運動の法則」における第一法則であり、「運動の第一法則」とも呼ばれる。
「慣性の法則」の概要
「慣性の法則」は、「等速運動(等速直線運動)中の物体」と「静止中の物体」について、どちらも外力(外部から物体にはたらく力)が加わらない限りは、運動中であれば運動を続けるし、静止中であれば静止したままである、とする法則である。ちなみに「等速運動」または「等速直線運動」とは、外力を受けずに動く(運動する)物体が取る「運動の速度と方向が常に一定である運動」のことである。
この「慣性の法則」は、ニュートン以前にも経験則的に見出されていたが、ニュートンが運動の基本法則として確立したとされる。「慣性の法則」は「ニュートン力学」の体系の基礎に位置づけられる法則でもある。
この「慣性の法則」は、ニュートンの「運動の第二法則」に含まれる「運動方程式」によって確認できる。運動方程式は「F=ma」の式で表される。「F」は力、「m」は物体の質量、そして「a」は加速度を表す。第一法則の「力が働いていない」という前提は、「F=0」を意味しており、「0=ma」という式を立てることができる。ここから、「a=0」という答えが導き出される。つまり、何らかの力が働かない限り、加速度は0であり、これは速度が変わらないということを意味する。
「慣性の法則」の卑近な例
「慣性の法則」がはたらいていると感じられる機会は、日常生活の中でもよくある。「慣性の法則」は多くの人が経験則的に見出している法則のひとつといえる。たとえば、停車していた電車や自動車が勢いよく走り始めると、乗車している人の体は進行方向と逆の向きに引っ張られる。体は静止し続けようとしている(ところに外力が加わる)わけである。高速走行中の車が急激に速度を落とすと、乗員の体は進行方向に引っ張られる。これは、乗員の体は運動を続けようとしている(ところに外力が加わる)わけである。
エレベーターに乗って停止状態から上昇を始めた瞬間には、体が重く感じやすい。同じくエレベーターが停止状態から下降を始めた瞬間は、体が浮くような感覚を得やすい。これも体が静止状態を維持しようとしていることに起因する。
走行中のトラックの荷台から飛び降りると、慣性の法則が働き、体は車と同じ進行方向への運動を続けながら地面に接触して、盛大に転ぶ。速度によっては骨折でも済まない大怪我に至る。
運動の第1法則
運動の第1法則(うんどうのだい1ほうそく、英語: Newton's first law)または慣性の法則(かんせいのほうそく) は、慣性系における力を受けていない質点の運動を記述する経験則の一つ。
概要
紀元前4世紀から3世紀の中国において成立した「墨子」において「運動の停止はこれに抗する力による…抗する力が無ければ…運動は決して停止しない。」と記述されたのが知られる限り最初のものであるが、その後体系化されることはなかった[1]。ガリレイやデカルトによってほぼ同じ形で提唱されていたものをニュートンが基本法則として整理した。
「すべての物体は、外部から力を加えられない限り、静止している物体は静止状態を続け、運動している物体は等速直線運動を続ける。」運動の第2法則から、ニュートン力学における物体の運動方程式(ニュートンの方程式)が導かれる。
この法則は、第2法則の具体例の1つで、力がかからない場合を考えている。
慣性の法則は、どのような座標系(英:coordinate system)でも成立するわけではない。例えば加速中の電車内に固定された座標系では、力を受けていない空き缶がひとりでに動きだすことがある。慣性の法則が成立するような基準系(いわゆる座標系)を慣性系という。
この法則は、第2法則と第3法則が常に例外なく成り立つような基準系(英:frame of reference)(即ち慣性系)が存在する事を主張する法則であると解釈される場合がある[2]。ただし、プリンキピアで3法則を述べる前の注釈で、絶対空間を説明していて、ここで慣性系の存在を主張している。
脚注
- ^ 1900-1995., Needham, Joseph, (1988). Science and civilisation in China. Vol. 1 Introductory orientations. Cambridge University Press. ISBN 0-521-05799-X. OCLC 1296078252
- ^ 山本義隆(2015)『新・物理入門<増補改訂版>』 駿台文庫
参考文献
- 松田哲『力学』丸善〈パリティ物理学コース〉、1993年、19頁。ISBN 4621038494。
- 小出昭一郎『力学』岩波書店〈物理テキストシリーズ〉、1997年、16頁。ISBN 4000077414。
- 原康夫『物理学通論』 I、学術図書出版社、2004年、30頁。全国書誌番号:92009400。
関連項目
慣性の法則と同じ種類の言葉
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