midsummer nightの時期と日本語訳題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 05:47 UTC 版)
「夏の夜の夢」の記事における「midsummer nightの時期と日本語訳題」の解説
英語の midsummer は、「盛夏」または「夏至」(6月21日頃)を意味し、Midsummer Night は聖ヨハネ祭(Midsummer Day)が祝われる6月24日の前夜を指す。ヨーロッパでは、キリスト教以前の冬至の祭りがクリスマスに吸収されたように、夏至の祭りも聖ヨハネ祭に移行した。この前夜(ワルプルギスの夜)には、妖精や魔女が地上に現れる、男女が森に入って恋を語るのが黙認される、無礼講の乱痴気騒ぎをする等、様々な俗信や風習があった。劇の表題と内容はこれに一致する。 ところが、この芝居は6月23日に設定したものではなく、第4幕第1場に「きっと五月祭を祝うために早起きして……」というシーシアスの台詞があるように、森での騒ぎは五月祭(5月1日, May Day)の前夜の4月30日であることがわかる。五月祭もまた自然の復活・再生を祝うもので、夏至祭の民間行事と多くの面で共通している。 この表題と実際の劇中の設定時期の不一致は古くから論争を読んでおり、たとえばサミュエル・ジョンソンは、既に『シェイクスピア全集(英語版)』(1765年初版発行)において「シェイクスピアは、この劇が五月祭の前夜のことだとこんなにも注意深く我々に伝えているのに、彼がなぜ『A Midsummer Night's Dream』と題したのか、私には分からない!」と第4幕で注を付けている。 一つの説明として、midsummer が時節そのものを指すものではなく、真夏の熱に浮かされた狂乱・狂気を意味するという考えがある。実際、シェイクスピア劇の中では、"This is very midsummer madness" (『十二夜』 第3幕 第4場)や "hot midsummer night" (『お気に召すまま』 第4幕 第1場)といった表現が見られる。 日本では坪内逍遥以来『真夏の夜の夢』という訳題が用いられてきたが、土居光知(1940年)は「四月末の夜は、我が国の春の夜の如く、(中略)夏至の夜と雖も英国の夜は暑からず寒からず、まことに快適である」というように、日本語の「真夏」を指すものに当たらないと考え、『夏の夜の夢』と訳した。福田恆存(1960年)も、「『Midsummer-day』は夏至で、クリスト教の聖ヨハネ祭日(注:前出)前後に当り、その前夜が『Midsummer-night』なのである。直訳すれば、「夏至前夜の夢」となる」とし、これに続いた。以来、日本では『夏の夜の夢』の訳題で出版されることが多い(小田島雄志、松岡和子など)。 一方、大場建治は「せめてこれを『真夏』として恋の狂熱を示唆しようとした逍遥の訳語の選択は、まことにぎりぎりのみごとな工夫だった」と逍遥訳を評価し、逆に土居訳を「背景の五月祭のイメージをそのまま律儀に信じ込んだ」ものであると批判している。自身の訳(2010年)も「真夏」を採用している。 『真夏の夜の夢』の題名は古くから親しまれ定着してきたため、1999年公開のアメリカ映画の邦題に用いられた他、今日でもメンデルスゾーン作曲の序曲・劇音楽などでしばしばこの表記が用いられている。
※この「midsummer nightの時期と日本語訳題」の解説は、「夏の夜の夢」の解説の一部です。
「midsummer nightの時期と日本語訳題」を含む「夏の夜の夢」の記事については、「夏の夜の夢」の概要を参照ください。
- midsummer nightの時期と日本語訳題のページへのリンク