TRISTAN実験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 03:13 UTC 版)
KEKBの前身となる加速器が、1986年に完成したTRISTAN(トリスタン。Transposable Ring Intersecting Storage Accelerator in Nippon (日本における粒子の貯蔵と加速を行う置換可能な交差型リング) を意味する名称の略称)である。文部省高エネルギー物理学研究所が5年の期間と870億円の費用をかけて開発した、円形衝突加速器である(2.1.2トリスタン加速器の概要 Figure 1)。円形とはいえ、電子・陽電子衝突実験を行うため途中に直線加速器を接続し、緩やかな屈曲部で繋いだ八角形型のトンネルからなる。陽電子発生用加速器と電子・陽電子線形加速器の長さは400メートル、入射蓄積リングは約370メートル、主リングの周長は3キロで、地下11メートルの深さのトンネル内にある。直線加速器の途中には、実験装置を収納する施設が設置されており、それぞれ、日本の地名にちなんだ名前がつけられている。筑波・大穂・富士・日光の四箇所である。主リング内を電子は右回り、陽電子は左回りに回転し、これらの実験室で衝突する。なお、八角形型になっているのは、電子・陽電子がシンクロトロン放射光でエネルギーを損失する屈曲部の曲率を少しでも減らすためである。 TRISTAN実験は、Topクォークの発見と標準理論の検証を最大の目的として始まった。TRISTAN実験では、最先端技術が多数投入された大型プロジェクトとして注目を受けていた。電子を加速するための高周波空洞には、TRISTANのために開発した5連型超伝導加速器空洞が投入された。また、現在のBell実験装置の雛形になった、トパーズ(TOPAZ)検出器なども開発されて、実験に用いられるなど、のちのBelle実験にもその経験が生かされている。TRISTANでの研究成果はΖ0の質量決定やフェルミオンの世代数決定に対する寄与等である。 この実験で用いられた装置群は、改良を行った後、以下の節に記載するKEKB加速器へ殆ど全てが転用されることになった。改良を行ったポイントは、高調波減衰型超伝導加速器空洞8台を導入し、クラブ空洞によるバンチ衝突角の適正化によるルミノシティの向上や、非対称型になるため、トンネルを再活用して、そこに新規の加速器を設置したことなどが挙げられる。 また、衝突点における実験装置も複合型実験装置にすることで、簡素化を行った。これらと同時に、直線加速器の大強度化を行い、最終的にKEKB実験へと引き継ぐ事になった。
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