母子感染
【頻度】 母が感染者の場合、児に感染する率はヨーロッパで15%、日本で推定20%以下、ニューヨークのある地域で25%、アフリカでは50%という地域もあり、平均は30%前後であろう。母体のHIV RNA量が多いほど感染率が高い。
【経路】 (1)子宮内あるいは胎盤感染、(2)産道または周産期感染、(3)母乳感染のどれもある。陣痛が起こる頃になると、胎盤の一部が剥がれて、お互いの血液が混じり合う。破水後から娩出に至る時間が長いと感染率が高い。感染率は母体の血漿HIV RNA値に比例しており、1000コピイ/mL以下では感染例は稀で、10万コピイでは40%に及ぶ。これらの成績から(2)が大半なのではないかと考えられている。
《参照》 感染経路

母子感染の予防
【対策】 母子感染を予防する方法は次のものが考えられる。(1)妊婦のHIV検査の奨励。(2)妊娠中に抗HIV薬で母体のHIV RNA量を減らす。(3)予定帝王切開によって娩出時間を短くし、産道粘液や母体血への曝露を減らす。(4)分娩中のAZT点滴。(5)新生児への抗HIV薬の使用。(6)母乳の禁止。
【抗HIV薬の成績】 ACTG076というアメリカの無作為化臨床試験はAZTと偽薬の比較を行った。生後18月での判定では偽薬群の感染率は25.5%、AZT群は8.3%であり、p<0.0006の有意差であった。日本のHAART実施例の約90例からは新生児の感染例は出ていない。
【詳しく】 HIV感染が判明したら、内科、産婦人科、新生児科、手術室、看護師、薬剤師、MSW、心理士などのチーム医療で実践する。入院前に病室を見学すれば妊婦は具体的なケアのイメージが理解できる。今後は母体や胎児に安全な抗HIV療法の確立が必要である。出産後の母親の抗HIV療法継続については相談できめる。

母子感染の診断
【診断】 出生直後に新生児のプロウイルスDNA(PCR)を、直後、1週、4週、24週に血漿HIV RNA検査する。直後にPCRが陽性のものは、子宮内感染が疑われる。直後にPCR陰性で、その後陽性に変わったものは周産期感染と考えられる。24週までPCR陰性のものは、感染を免れたものと診断される。母親からの移行抗体であるHIV抗体は通常消失に15ヶ月を要するので、18ヶ月以後に複数回陽性の場合は感染と考えられる。なお出生前診断は流産の危険性があるうえに感染を発生させる危険がある。

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