Irritator challengeri ホロタイプの解剖学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 02:24 UTC 版)
「イリタトル」の記事における「Irritator challengeri ホロタイプの解剖学」の解説
Irritator challengeri のホロタイプ頭骨は特定部位が酷く損傷しているが、大まかには完全であり、失われている部位は吻部先端と下顎骨の前方部位のみである。保存された頭骨は高さ16.5センチメートル、幅10センチメートルであり、完全な頭骨長はバリオニクスに基づいて60センチメートルと推定された。イリタトルの頭骨は長く、狭く、断面はある程度三角形をなしていた。脳頭蓋は後方に傾き、長さよりも深さがあった。そこから上下に低い吻部が長く伸び、両側が比較的平坦でわずかに頭骨の正中線に曲がっていた。対をなす前上顎骨の後端だけが完全であり、外鼻孔の上下境界の前方を形成した。全てのスピノサウルス科と同様に、上顎骨は外鼻孔を過ぎてその下に伸びており、長く低い枝は外鼻孔の下側境界をなし、前上顎骨と鼻骨をその位置で分けていた。イリタトルの上顎洞(英語版)はアロサウルスと同様に大型の楕円形開口部を持った。全てのスピノサウルス科と同様に外鼻孔は楕円形で、典型的な獣脚類よりも遥か後方に位置していた。イリタトルの外鼻孔は相対的・絶対的にスコミムスやバリオニクスのものよりも小さかったが、スピノサウルスのものよりは大型であった。眼窩の後ろに開いた孔である下側頭窓は非常に大きい一方、目の前に開いた上側頭窓は細長い楕円形であった。眼窩自体は眼球の位置した最上部で底よりも深く広かった。涙骨は眼窩を前眼窩窓と分け、40°で閉じる2つの突起で前眼窩窓の上下後方縁を形成した。この角度は35°のバリオニクスのものに似ていた。バリオニクスと違い、イリタトルの涙骨は骨の角を形成しなかった。前眼窩骨は大型かつ頑丈で、その後ろに位置する薄い前頭骨は最上部で滑らかかつ凹状で、いずれもが眼窩の上部縁を形成した。 薄い矢状隆起が長い鼻骨から構成されており、頭骨の正中線を走って目の真上の平坦な膨らみで止まる。イリタトルの矢状隆起の完全な形状と高さは不明だが、頭部の鶏冠はスピノサウルス科に共通であり、生きていた頃にはおそらく性的ディスプレイとして機能していた。イリタトルの鶏冠の保存された部分は前眼窩窓の最深部の真上で、スピノサウルスの鶏冠に見られる垂直な隆起を欠いている。他のスピノサウルス科と同様に、イリタトルには長い骨質の構造が口二次口蓋として存在し、口と鼻腔を分別していた。この特徴は現在のワニにも観察できるが、大半の獣脚類恐竜には存在しない。また、他の親戚と同様に、イリタトルの頭蓋天井にはさらに2つ孔(postnasal fenestrae)が開いているほか、部分的にしか分かれていない長い基翼状骨突起(口蓋骨と共に頭蓋腔と繋がる骨の伸長)があった。下顎の欠損は深く、後側上側表面は大部分が上角骨からなり、上角骨は下に位置する浅い角骨と関節した。下顎の側面に開いた孔(mandibular fenestra)は楕円形的比較的大型だった。下顎で歯の生えた骨である歯骨はイリタトルでは確認されておらず、上角骨の前に残骸が残っている。Irritator challengeri のホロタイプはあぶみ骨が保存されていた非鳥類型恐竜化石という点でもユニークである。 イリタトルの歯は円錐形でわずかにのみ湾曲しており、縁は鋭く明瞭であったが鋸歯状ではなかった。縦方向の溝が歯冠に存在し、これはスピノサウルス科には一般的な歯の特徴であった。。スピノサウルスと同様にイリタトルの歯は両側とも溝があったが、バリオニクスの歯の溝は内側にしかなかった。イリタトルの歯は断面が円形で、大半の獣脚類恐竜の側方に平たい歯とは対照的である。エナメル質は薄く、きめ細かい皺の入った手触りはバリオニクスでも観察できる。イリタトルの上顎骨は左右両方とも9本の歯が保存され、より完全度の高い左上顎骨歯については母岩に10番目の歯の痕跡がある。歯は顎へ深く差し込まれ、上顎骨の前方へ広く間隔を開けていた。第1および第2上顎骨歯が最も大きく、それぞれ歯冠の長さは32ミリメートルと40ミリメートルであった。残る7本は奥に向かうにつれ小型化し、最奥の歯は歯冠長6ミリメートルと推定されている。この標本に行われたCTスキャンから、上顎の左右両側において生え変わりの歯が明らかにされている。生え変わりの歯の歯根は上顎骨に深く走り、ほぼ頭骨の最上部に届くようにして正中線近くで生え変わった。イリタトルの親戚との比較に基づくと、上顎骨はおそらくそれぞれ合計11本の歯が並んでいた。この値は、スピノサウルスに分類される上顎化石 MSNM V4047 の12本に近い。イリタトルの標本の左上顎骨で最も奥に位置する歯は完全には生え出ておらず、先端だけが視認できる。
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