Blue Brain プロジェクトと計算問題
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「精神転送」の記事における「Blue Brain プロジェクトと計算問題」の解説
2005年6月6日、IBM とスイスのローザンヌ連邦工科大学は、人間の脳の完全なシミュレーションを構築する「Blue Brainプロジェクト」を開始することを発表した。このプロジェクトは IBM の Blue Gene 設計に基づくスーパーコンピュータを使って、脳の電気回路を再現する。人間の認知的側面の研究と、自閉症などの神経細胞の障害によって発生する様々な精神障害の研究を目的とする。当面の目標は、ラットの新皮質の一部を正確にシミュレートすることであり、これは人間の大脳新皮質とよく似ている。次いで、知能と深く関わるとされる大脳新皮質全体のシミュレート、さらには人間の脳全体へと進めていく。 しかしながら、Blue Brain プロジェクトの主任研究者 Henry Markram が「知的ニューラルネットワークを構築することが最終目標ではない」と述べている点は重要である。また、彼は人間の脳の正確なシミュレーションがコンピュータ上で可能かとの質問に次のように答えている: 「それは不可能と思われるし、必要でもない。脳の中ではそれぞれの分子が強力なコンピュータであり、それを正確にシミュレートするには、膨大な数の分子と分子間の相互作用をシミュレートする必要があり、非常に困難だ。おそらく現存するコンピュータより遥かに強力なものが必要となるだろう。動物の複製を作るのは簡単であり、わざわざコンピュータ上で動物の複製を作る必要はない。それは我々の目標ではない。我々は生体系の機能と誤動作を理解することで人類に役立つ知識を得ようとしている」 精神転送の信奉者は、ムーアの法則を引き合いに出して、必要なコンピュータ性能がここ数十年の間に実現すると主張する。ただし、そのためには1970年代以降主流となっている半導体集積回路技術を越えた技術が必要となる。いくつかの新技術が提案され、プロトタイプも公開されている。例えば、リン化インジウムなどを使った光集積回路による光ニューラルネットワークがあり、2006年9月18日、インテルが公表している。また、カーボンナノチューブに基づいた三次元コンピュータも提案されており、個々の論理ゲートをカーボンナノチューブで構築した例が既にある。また、量子コンピュータは神経系の正確なシミュレーションに必要なタンパク質構造予測などに特に有効と考えられている。現在の手法では、Blue Brain プロジェクトが Blue Gene を使っているように従来型のアーキテクチャの強力なコンピュータを使った ab initio モデリングなどの手法が必要となる。量子コンピュータが実現すれば、量子力学的な計算に必要とされる容量やエネルギーは削減され、Markram が言うような脳全体の完全なシミュレーションに必要とされる性能や容量も減少すると考えられる。 最終的に、様々な新技術によって、必要とされている計算能力を超えることは可能と予測されている。レイ・カーツワイルの収穫加速の法則(ムーアの法則の変形)が真実ならば、技術的特異点に向けての技術開発の速度は加速していき、比較的素朴な精神転送技術の発明によって2045年ごろには技術的特異点が発生すると予測されている。
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