2軸式V型4気筒
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/18 08:17 UTC 版)
かつてロードレース世界選手権及びMotoGPに参戦していた2ストローク500 ccエンジンを搭載したワークスレーサーに60度ないし75度の2バンク・2シリンダーの構成で各バンクに1本、合計2本のクランクシャフトを駆動するタイプのV型4気筒エンジンが存在した。このような構成のエンジンはヤマハ・YZR500(及びレーサーレプリカのヤマハ・RZV500R)やカジバ・GP500、スズキ・RGV-Γ500等で採用され、製造メーカー自体はV型4気筒と定義していたが、厳密にはスクエア4気筒の発展系に相当する。 このような形式のエンジンは、古典的な直列4気筒(二輪では横置きのため並列と呼ばれることが多い)や一般的なV型4気筒と比較して二つの利点がある。 一つめはエンジンの幅で、1軸式V型4気筒では1本のクランク上にクランクウェブ・ベアリングのジャーナル・クランクピンを設けなければならず、前後の気筒でクランクピンを共有しない位相クランクを採用した場合には更に幅が必要となり、また前後のシリンダーもクランクピンが置かれた位置により左右方向にオフセットされた千鳥配置とならざるを得ず、エンジンのコンパクト化には限界がある。更に2ストロークエンジンではクランク室を気筒ごとに気密しなければならないため、クランクシール分の厚みも必要となる。しかし前後のバンクでそれぞれにクランクを持つ2軸式V型4気筒は、バンク角を設けて直列2気筒を前後に並べた構造であり前後バンク間で物理的に干渉が起きないため、純粋に直列2気筒と同じ幅のコンパクトな設計が可能になる。二つめは2本のクランクシャフトがお互いに逆回転する構造にする事で、前後バンクで各々に発生する回転モーメントを相殺でき、多くの場合にバランスシャフトが不要となる点である。これにより2軸式としたことで構成部品が増加した重量面でのデメリットを緩和することが可能になる(ただしYZR500(OW61)や、そのレプリカモデルであるRZV500Rでは、前後バンクの2本のクランクに挟まれた出力軸を持つため同方向に回転しており、公道走行用の市販車であるRZV500Rはその出力軸にバランスシャフトを内蔵している)。 この形式の先鞭を付けたのは1967年のヤマハの250 ccワークスレーサーであるRD05Aで、そのエンジンは1964年から1966年の125 ccクラスで実績のあった水冷直列2気筒125 ccのRA97のエンジンを上下に重ねて4気筒化するという奇策により完成した物であった。RD05Aは250 ccクラスで大きな実績を納め、後に125 cc版のRA31も投入されたものの、500 ccクラスでは並列4気筒が採用されたために一時的に2軸V4は姿を消す事となったが、1982年のYZR500 (0W61) にて復活を遂げ、その後2002年のMotoGP規定完全移行に至るまで、ホンダを除く各ワークスチームの2ストローク500 ccレーサーの主流であり続けた。
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