音楽と物語
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『ザ・カーマン』というタイトルが示す通り、本作の音楽は、フランスの作曲家 ジョルジュ・ビゼー によるオペラ『カルメン』 に基づいているが、元のスコアは使われていない。代わりに、作曲家テリー・デイヴィスは、出発点としてロシアの作曲家 ロディオン・シチェドリンが編曲したボリショイ劇場版『カルメン組曲』を用い、そこへ原曲に基づく曲を追加した。『カルメン組曲』 は、弦楽器と打楽器 のみを用いた約40分間の作品である。マシュー・ボーンが作曲家に全スコアの作曲を依頼したのは、本作が初めてである。 『ザ・カーマン』の物語は、ビゼーの『カルメン』とは全く異なる。ボーンは、少なくとも2人の登場人物、男性1人(おそらくルカ)と女性1人(ラナ)がカルメンの人物像に「似ている」と言い、さらに「ザ・カーマン」とはルカのことだと述べているが、カルメンに直接あてはまる登場人物はいない。ボーンによれば、「私は、オペラ『カルメン』の物語に特に興味があったわけではありません。話はよく知りもしなかったし、実を言うと、今でもよく知りません。共通点もありますが、むしろ興味があったのは、音楽の感じと、誰もが知っている『カルメンとはこういうものだ』という感じです」 。 本作の筋書きは、ジェームズ・M・ケインによる1934年の小説『郵便配達は二度ベルを鳴らす』 、および同名の映画(1946年版、1981年版)を大まかな下敷きとしている。映画の1946年版は ジョン・ガーフィールド と ラナ・ターナー、1981年版は ジャック・ニコルソン と ジェシカ・ラングが主演している。映画では、流れ者のフランクが カリフォルニア州 の田舎の食堂に客として立ち寄り、やがてそこで働くことになる。食堂を切り盛りしているのは若く美しい女性コーラと、年の離れたギリシャ人の夫・ニックだが、コーラはニックのことを愛していない。フランクとコーラは肉体関係をもち、2人は、コーラが食堂を手放すことなく新しい生活が送れるよう、ニックの殺害を計画する。殺害は一度失敗するが、最終的には成功する。地元の検事は不審に思うが、十分な証拠は挙がらない。2人を仲違いさせようと企んだ検事は、コーラの方だけを起訴する。狙い通り2人の関係は険悪になるが、コーラの弁護人の巧みな戦略により、コーラは検事にすべてを自白することを免れ、ついには無罪となる。やがて、フランクとコーラは不安定な関係を修復し、将来の計画を立てる。しかし、2人がついに「いつまでも幸せに」暮らす準備ができたと思われたところで、コーラが交通事故で死んでしまう。映画版の結末は、ケインの原作小説とは異なる。小説では、フランクはコーラを殺害したとみなされて有罪判決を受ける。 『ザ・カーマン』におけるルカ、ラナ、ディノの人物像は、明らかに映画版のフランク、コーラ、ニックに基づいている。また、フランクとコーラによるニック殺害は、ルカとラナがディノを殺すことに対応している。さらに、ケインの小説でフランクが誤って有罪とされることは、アンジェロが誤審を受けることに反映されている。しかし、類似点はそれだけである。 ボーンはこの物語に、 報われない愛(英語版)や裏切り 、復讐といったテーマを持ち込んでおり、これらのテーマは 『白鳥の湖』など彼の他のバレエ作品にも登場する。また、同性愛の要素も見られ、主人公のルカは バイセクシュアルであり、アンジェロと関係をもつほか、「ディノのガレージ」の工員の唇にキスをして挑発している。アンジェロについては、刑務所で監視人のデクスターに犯されていることも暗示される。その他にも、工員たちのうちマルコとヴィトは、男性同士で性行為に及んでいる。
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