音楽と構成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/20 06:31 UTC 版)
「ゲーテのファウストからの情景」の記事における「音楽と構成」の解説
序曲と全3部からなる。ゲーテの原作は2部構成であるが、シューマンは音楽を3部構成とした。 序曲は全曲の最後に完成された。シューマンはここで『ファウスト』の全体を凝縮し、象徴的に表現しようとした。前田はこの序曲を「独特の崇高様式」と呼んでおり、さらに結尾について、「一種形而上的なアポテオーゼ(神格化)とも呼びたいような、内的な祝祭の響きが込められている。」とする。 第1部では、『ファウスト』第1部を占めるグレートヒェンの悲劇を扱うが、シューマンはこの悲劇を全体としてではなく、本質的な3つの局面を取り出すことによって象徴的に描いた。外面的な出来事の叙述は思い切って略し、グレートヒェンの内面の葛藤に焦点を当てている。前田によれば、第2景「悲しみの聖母像の前でのグレートヒェン」において、内心の真摯な「語りかけ」と表現としての「歌」とが織り合わされて内に向かう劇性が追求されており、終わり近くでほとばしるように出る救済への切実な叫びには、マーラーをも先取りする深い表現性が込められている。また、第3景「寺院の中で」では、舞台的な音楽形成ではなく、強迫観念の錐をもみ込むような音楽となっており、ワーグナーとは異なる内的心理的なシューマンの音楽的ドラマトゥルギーともいうべきものの最も優れた例のひとつとされる。 第2部では『ファウスト』第2部から、グレートヒェンの悲劇後のファウストの再生と死までが扱われる。とりわけ第4景「アリエル、日の出」(第1曲)は、音楽の力と充実において全曲の頂点のひとつを担っている。 第3部では『ファウスト』第2部の終末部に基づき、ファウストの救済を主題とした形而上的音楽となる。全曲でもっとも規模が大きいだけでなく、7つの部分からなり、ゲーテの原作が切れ目なく続けて把握される点で、前の二つの部分と根本的に異なる。第3部の音楽について前田は、「その深さと豊かさと、神秘的な美しさは、全く筆舌に尽くせないものがある。音楽芸術が、気高く深いものとして到達しうる最高の境地に、この第3部は到達している。」、「よくゲーテの世界文学の高みに迫るものといえよう。」と述べている。また、ブリオンは次のように述べている。 この曲の「隠者の合唱」を聴くと、天上の平安の国へと、またすべて人間的なものを超越し、真の精神の光を目の当たりにさせる晴朗なエクスタシーへと導かれ、高められるように感ずる。シューマンの作曲した教会音楽すら、これほどの神聖な情感、神的な直感に達してはいない。シューマンは見事な簡潔さで天使の合唱によって天上の喜びを称えさせ、厳かにも甘美な和音の響きの中で聖母マリアを顕現させる。 — マルセル・ブリオン『シューマンとロマン主義の時代』より
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