配偶行動について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/04/13 06:19 UTC 版)
上記のように、この昆虫は交尾の際に雄が雌に獲物をプレゼントする習性が知られている。これ自体は肉食性の動物に往々にして見られるものであるが、この昆虫では、この行動に関する研究が行動生態学の発展に大きく寄与したことで知られている。 古くは、単に雄が雌の食欲を押さえるために餌を食べさせているのだと云うような解釈が行われ、なかには「雌雄で仲むつまじく餌を食べながら交尾」といった記述も見られた。解釈そのものはそれほど間違いではないと思われるが、その行動の内容がそう単純なものではないことが判明したのは、1980年のR.ソーンヒルの研究からである。彼は、それ以前にアメリカでツマグロガガンボモドキ(Hylobittacus apicalis)を多数観察し、雄が獲物を持っているところへ来訪した雌が、交尾する場合もしない場合もあることを見て、餌の大きさによって雌が雄を選んでいるらしいことに気がついた。彼は、この虫がダーウィンのいわゆる性淘汰の理論を検証するのに好適であると判断したという。 ダーウィンの性淘汰の論では、雌を巡って雄同士が戦うことによる競争による選択と、雄を選ぶ雌による選択の二つの場合があることを想定している。しかし、前者については批判が少なかったが、後者は当初から多くの批判があり、その存在が推定される実例は少なかった。わずかな実例も、間接的な推定がなされているにすぎなかった。さらにその選択が実際に適応的であるかどうかを判断できる例はほとんどなかった。 彼は交尾時間と餌の大きさの関係、受精嚢の精子量、その他交尾前後の行動などの検討を通じて雌による選択のあり方やその効果などから雌による選択の存在を論じている。例えば雌は不十分な大きさの餌を持つ雄とも交尾する場合があるが、その場合には次の雄を探しに出かけ、十分な交尾時間を維持するだけの餌を持つ雄と交尾した場合には次の雄を探すのをやめるという。最後の雄の精子が有効になるのは昆虫には普通のことなので、これは大きい餌をとる雄を選択する結果を生むであろう。 が、同時に奇妙な事実をいくつか発見した。例えば雄による餌の奪い返しである。餌が小さい場合やまずいものの場合、雌は交尾を打ち切って立ち去るが、餌が十分大きくて、十分な交尾時間が得られた場合、交尾を打ち切るのは雄で、その際に雌から餌を奪い返そうとし、しかも過半数は奪い返しに成功するという。雄はその餌が雌へのプレゼントにまだ役に立つと判断すれば、再び雌の誘引を始める。また、みずから獲物を探さない雄の行動も発見された。一つは交尾中のペアから餌を盗むことで、もう一つは雌に擬態すること、具体的には餌を持って雌を待っている雄のところへ、雌の振りをして近づき、餌を受け取るとそのまま立ち去ってしまう。 彼によると、雌にとって給餌を受けるのは明らかにクモに捕まる危険を低下させ、生存率を上げる効果がある。これは雄と雌の飛行距離の大きな差(雄は獲物を探すために雌の2倍ほど飛び回っている)によるとの判断である。他方で、上記のような雄による餌の再利用や餌盗みは雄の危険を減少させることで適応的と見る。いずれにしても、ここには雄と雌の立場の差に基づく拮抗や雄の行動に見られる代替戦略的な複数の行動の共存といった行動生態学的な見方が強く出ている。
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