部族や民族間の冗談関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/01 06:02 UTC 版)
フランスの民族誌学者、マルセル・グリオールも、西アフリカには、単なる遊びに過ぎないが、隣接するエトニ間、クラン間、家族間の緊張をガス抜きする作用のあるコミュニケーションがあることを1948年に指摘した。グリオールはこれを「カタルシスのための協調」(alliance cathartique)と呼んだ。 西アフリカにおいては、「冗談関係」に基づく慣習がよく行われている。マリンケ人には sinankunya、ソニンケ人には kalungoraxu、モシ人には rakiré と呼ばれ、コートジボワールでは toukpêという。ハルプラール(トゥクロール人の中でも特に遊牧を行うグループ)では dendiraagal といい、セレール人には kalir もしくは massir と呼ばれ、ウォロフ人には Kal と呼ばれる。 西アフリカにおいて冗談関係は、家族内(血縁上遠い「いとこ」同士)、家族間(例えば、Fall家とDieng家、Niang家、Ndoyene家との間)、クランやトライブやエトニ間に見られる。同関係における一方は他方に対して、脈絡なく侮蔑的な冗談を言う。社会的緊張関係にある二者が、対面状態における言語によるこの種の冗談を交わすことによって、緊張が緩和される。 エトニ間の冗談関係の一例としては、ドゴン人とボゾ人(フランス語版)の間や、フルベ人とセレール人の間で慣習がある。クラン間の冗談関係の一例としては、ジャラとトラオレ(Diarra et Traoré)、ンジャエとジョップ(Ndiaye et Diop)といったクラン間で冗談関係がある。例えば、ンジャエに属する一人の人物が、ジョップに属する誰かと道ですれ違ったとする。そのときンジャエはジョップのことを泥棒扱いしたり落花生を食べる奴ら呼ばわりするのであるが、誰もそのことに驚いたりしないどころか、すれ違った当人同士も知らん顔で通り過ぎる。これはいじめが容認されているというわけではない。昔からある滑稽な侮辱の言葉をあえて口に出すことで「二つのクランが競い合っている」という絵を描いているのである。儀礼的な無礼行為は、競争関係を戯画化し、絵空事にする。 ブルキナファソでは、植民地時代以前から冗談関係が受け継がれている。その起源はさまざまであり、モシ人とサモ人(フランス語版)の冗談関係のように、戦時の同盟をめぐる対立を通して確立されたものもある。あるいは、定住農耕を営むボボ人(フランス語版)と移牧を営むフルベ人の間に見られる冗談関係のように、生業の違いに端を発して、確立していったものもある。ブルキナファソではその他に、ビサ人とグルンジ人(Bisas et Gourounsis)の間にも冗談関係が見られる。儀礼的な侮辱の言葉は生活習慣や食習慣に由来するものが多く、ボボ人はプル人を「家畜で農地を壊す奴ら」、プル人はボボ人を「酒を飲みすぎる奴ら」とする。 冗談関係がブルキナファソにおける民族対立を未然に防いでいるという説は、複数の社会学的研究により裏付けられている。ブルキナファソの社会科学研究所の研究員、アラン・ジョゼフ・シサオ(Alain Joseph Sissao)は、「アフリカの他所の国では民族間の紛争が多くの人命を奪っているが、そのようなところと比較するとブルキナファソの社会が安定していることは疑う余地のない事実である。それは政治によりもたらされたものというよりは、冗談関係、そして協調といった、伝統的な慣習の力によりもたらされたものである」と述べた。
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