超撥水面の立体構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/12 00:30 UTC 版)
「濡れ#表面構造によるぬれの変化」も参照 単なる平坦な面より、凹凸のある表面の方が、高い撥水性を得る上で有利である。このことを以下に説明する。 1805年、トマス・ヤングは濡れ現象の式を以下のように定義した。 γ S G = γ S L + γ L G cos θ {\displaystyle \gamma _{SG}\ =\gamma _{SL}+\gamma _{LG}\cos {\theta }} ここで γ S G {\displaystyle \gamma _{SG}\ } = 固体と気体間にはたらく張力 γ S L {\displaystyle \gamma _{SL}\ } = 固体と液体間にはたらく張力 γ L G {\displaystyle \gamma _{LG}\ } = 液体と気体間にはたらく張力 θ {\displaystyle {\theta }} c = 接触角 このように、3相相互の張力が求めれば、接触角を算出することができるし、逆に接触角を利用して張力を算出することもできる。 水と面が接する面積が増加すると、以下のような撥水と接触角の理論が適用できるようになる。これが、凹凸のある面で撥水性が高まる理由である。 面の粗さの比較的少ない面(凹面にくまなく液面が接するような面)における接触角 θW* はWenzel(ウェンゼル)が以下の式で近似できるとした。 cos θ W ∗ = r cos θ {\displaystyle \cos {\theta _{W*}}=r\cos {\theta }} ここで係数 r は実面積係数、すなわち接触表面積が平坦な場合と比較した場合の倍数である。凹凸が多く粗い面、つまり面-液面が(みかけ上)広い面積で接しており、液面入り込めない多数の空隙の存在によって点接触をしている場合の接触角はCassie(カシー)およびBaxter(バクスター)が以下の式で近似できるとした。 cos θ C B ∗ = ϕ ( cos θ + 1 ) − 1 {\displaystyle \cos {\theta _{CB*}}=\phi (\cos {\theta }+1)-1} ここで φ < 1 は接触面積中の点接触面積の割合を示す。 主な濡れ理論は以上のとおりであるが、過渡的な現象についてはさらに検討が行われ、たとえばOndaらは1996年に各界面における気体の吸着割合を考慮した3次式を発表したなどの例がある。 以上のように、平坦でない面の場合、面-液面は、平面に比べて実際の接触表面積が拡大し、実質の自由表面エネルギーが平面の場合より大きくなる。そのため、濡れやすい表面はより濡れやすく、弾きやすい表面はより弾きやすくなる。このとき、限りなく面-液面が多い点で接触するようにすれば、最大の接触角を得ることができる。つまり、接触角を180°とすることができる。この理論値に近づくために数々の努力が払われてきた。限りなく面-液面が多い点で接触する条件とは、すなわち、面の凹凸が限りなく多いということである。この条件を満たす理想的な面とはフラクタル面である。厳密な意味でのフラクタル面を現実の物質で創製することは不可能であるが、たとえば、結晶成長に伴う自己組織化を利用する、プラズマや腐食性流体などを利用したエッチングを行うこと、などでフラクタル面に類似した面を得ることができる。結晶成長においては、液相が固相に変化する過程で、準安定な結晶相を経て安定な結晶相となる際に自己組織化を伴うことが知られており、これを利用することが多い。この擬似フラクタル表面の完成度については、フラクタル次元を用いて評価が行われる。現在では、数々の無機結晶・有機結晶・金属結晶で、結晶成長を利用したフラクタル面の製造法が確立されている。 また、柱状構造や剣山構造があると、その凹凸が液面の進行を阻止する障壁となることがある。このため、凹凸を乗り越えられない液面は通常の表面より大きい接触角を持つこととなる。微細な柱状構造をもった表面はこのような性質を示し、この作用はピン止め効果とよばれる。微視的な柱状構造や剣山構造を作る手法としては結晶成長の他に、半導体の回路パターンを形成する場合と同様に、フォトリソグラフィー-エッチングを用いる方法、微細金型を利用した超精密鋳型による形状転写を行う方法が確立されている。特に、鋳型を行う方法は結晶化を進める時間が必要ないため、量産性に優れる。
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