観測:近日点距離が大きい天体の軌道の偏り
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/22 14:00 UTC 版)
「プラネット・ナイン」の記事における「観測:近日点距離が大きい天体の軌道の偏り」の解説
大きな軌道長半径を持つ太陽系外縁天体の軌道要素に偏りがあることは、2014年にトルヒージョとシェパードによって初めて指摘された。彼らはセドナと2012 VP113の軌道の間に見られる類似性を指摘した。プラネット・ナインのような天体が存在しなければこれらの軌道はランダムに分布するはずであり、軌道の配置には特定の傾向は見られないはずである。トルヒージョとシェパードはさらなる解析を行い、近日点距離が 30 au より大きく、かつ軌道長半径が 150 au より大きい12個の外縁天体の近日点引数が 0° 付近に偏っていることを指摘した。つまりこれらの天体はみな、太陽に最も接近する時に黄道面を下から上へ通過する軌道を持っていることを意味している。トルヒージョとシェパードは、これは海王星軌道より遠方にある未知の重い天体によって、古在メカニズムを介して引き起こされていると提唱した。同程度の軌道長半径を持つ天体の場合、古在メカニズムは天体の近日点引数を 0° か 180° 付近に制約する働きがある。この軌道の制約により、離心率と傾斜角を持った軌道にある外縁天体は惑星への近接遭遇を回避することができる。なぜなら外縁天体が惑星の軌道平面を横切るのは天体が近日点と遠日点付近にいるときであり、軌道の十分上か下にいる時に惑星の軌道を横切るからである。しかし、外縁天体の軌道が古在メカニズムによってどのように揃うようになるかについてのトルヒージョとシェパードの仮説は、さらなる解析と証拠に取って代わられることとなる。 バティギンとブラウンは、トルヒージョとシェパードによる上記の仮説を否定するつもりで大きな軌道長半径を持った太陽系外縁天体の軌道の調査を行った。彼らはトルヒージョとシェパードによる解析に用いられた外縁天体のうち、海王星に接近するため軌道が不安定になるものや、海王星との平均運動共鳴に影響されるものを取り除いて解析を行った。その結果、残った6つの天体 (セドナ、2012 VP113、2004 VN112、2010 GB174、2000 CR105、2010 VZ98) の近日点引数が 318° ± 8° に集まっていることが判明した。この発見は、古在メカニズムによって近日点引数が 0° か 180° に揃うという傾向とは一致しないものであった。 バティギンとブラウンはさらに、軌道長半径が 250 au より大きく、近日点距離が 30 au を超える極端な太陽系外縁天体6つ(セドナ、2012 VP113、2004 VN112,、2010 GB174、2007 TG422、2013 RF98)の軌道について、近日点が空間的におおむね同じ方向に揃っており、その結果として太陽に最も接近した際の位置を表す近日点黄経(英語版)が集まっていることも発見した。6個の天体の軌道は黄道面に対して傾いており、おおむね同一平面に存在する。そのため天体が黄道面を下から上へ通過する位置を示す昇交点黄経も集まっている。彼らは、この軌道要素のクラスタリングが偶然発生する確率はわずか 0.007% であると計算している。これらの6つの天体は、6つの異なる望遠鏡を用いた6つの異なるサーベイによって発見されたものである。そのため、例えば望遠鏡が空の特定の領域を観測していたなどの観測バイアスによって軌道要素の偏りが生まれている可能性は低いとされる。これらの天体の軌道長半径と軌道離心率はそれぞれ異なることから、近日点の場所と昇交点の変化もしくは歳差は異なる速度で発生し、その結果として軌道要素の偏りは数億年のうちになまされてしまうはずである。そのためこの偏りは恒星の通過などの過去の事象では起こり得ず、太陽を公転する天体の重力場によって維持されている可能性が最も高いことを示唆している。 トルヒージョとシェパードは後の論文で、軌道長半径が 150 au を超える太陽系外縁天体の近日点黄経と近日点引数の間の相関について指摘している。近日点黄経が 0°〜120° のものは近日点引数が 280°〜360° の間にあり、近日点黄経が 180°〜340° のものは近日点引数が 0°〜40° の間にある。この相関の統計的有意性は 99.99% である。彼らは、この相関はこれらの天体の軌道が重い惑星との近接遭遇を起こしていないことによることを示唆した。 カイパーベルトの外側に安定した軌道を持つ6個の太陽系外縁天体とプラネット・ナインの比較名前P(年)a(au)q(au)eω(°)視等級直径(km)2012 VP113 4287 263.89 80.31 0.70 292.9 23.4 600 2013 RF98(英語版) 5862 325.1 36.29 0.89 316.5 24.4 80 2004 VN112(英語版) 5736 320.42 47.33 0.85 327.2 23.3 200 2010 GB174 7159 371.45 48.67 0.87 347.7 25.2 200 2007 TG422(英語版) 11304 503.69 35.58 0.93 285.8 21.9 200 セドナ 11429 507.38 76.05 0.85 311.5 21.0 1000 プラネット・ナイン 〜15000 〜700 〜200 0.6 150 >22 26000 - 52000 .mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}極端な太陽系外縁天体の軌道 極端に遠い太陽系外縁天体の軌道と、仮説上のプラネット・ナインの軌道(緑線)。 13個の極端な太陽系外縁天体の現在位置の拡大図。
※この「観測:近日点距離が大きい天体の軌道の偏り」の解説は、「プラネット・ナイン」の解説の一部です。
「観測:近日点距離が大きい天体の軌道の偏り」を含む「プラネット・ナイン」の記事については、「プラネット・ナイン」の概要を参照ください。
- 観測:近日点距離が大きい天体の軌道の偏りのページへのリンク