被告人Aの業務および各注意義務
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/09 09:16 UTC 版)
「千日デパートビル火災事件」の記事における「被告人Aの業務および各注意義務」の解説
(要旨)大阪高裁は、被告人Aの防火管理者としての業務と責務を原審どおり認め、各注意義務については、火災の予見可能性、防火管理責任者としての結果回避義務を認めた。被告弁護人は、被告人Aの防火区画シャッターを閉鎖する義務について「シャッター閉鎖の法令も無く、それゆえに被告人Aが防火区画シャッターを閉鎖しなかったのは当然で、夜間閉鎖する義務もない」として反論したが、大阪高裁は「火災当夜の電気工事は、火災が発生する可能性が無かった工事とはいえず、火気の管理もなされていなかった。被告弁護人の所論は採用できない」として退けた。 また保安係員を夜間工事に立ち会わせる義務について被告弁護人は「火災当日の工事は火災が発生する恐れは無く、ニチイに監督させれば十分だった。工事人の喫煙についてもニチイに対して事前に文書で注意するように要望しており、被告人Aが保安係員を工事に立ち会わせなかったのは当然で、立会いの義務もなかった」と主張したが、大阪高裁は「日本ドリーム観光とテナントの間には事実上の保安管理契約が結ばれている。火災当日の工事にニチイは監督しておらず、ニチイはデパート管理部が保安管理上の立会を行うものと考えており、実際にニチイが行う工事に際して過去に監督者を置いたことも無かったことから右同社は、工事業者に防火管理一切を任せていた。また工事人らの喫煙管理は疎かになっており、被告人Aが保安係員の工事立会いを不要と判断したのは当然などとは到底言えず、被告弁護人の所論は採用できない」として退けた。 被告人Aの防火管理者としての業務および義務 原審認定のとおりである。#原審・被告人Aが防火管理者として為すべき業務 それに加え、被告人Aは防火管理者としての業務を実行するため、日本ドリーム観光管理部保安係員に対する指導監督権も有していたことが認められる。 —大阪高等裁判所第7刑事部、判例時報1988(1262) 予見可能性および結果回避義務について 火災で発生した煙がプレイタウン店内に流入する予見の可能性について、被告人Aは、大阪市消防局や南消防署が主催したビル火災についての研究会や説明会に3回出席しているのであり、ビル火災における煙の上昇経路やその危険性の説明を受けているのであるから、千日デパートビルにおいて6階以下の階で火災が発生した場合は、煙がいずれかの経路を通て7階プレイタウンに流入する恐れがあることをビルの防火管理責任者として理解し得たはずで、したがってプレイタウンに在店する客や従業員の生命身体に危険が及ぶことがあり得ることを十分に予見できたものと言わなければならない。被告人Aの結果回避義務(防火区画シャッター閉鎖義務)については、千日デパートビルの火災延焼階には(2階ないし4階)、熱式感知器およびエスカレーターの防火カバーシャッターが備わっていないことから、工事の際には一部を除いて、あらかじめ全ての防火区画シャッターを閉鎖しておく必要がある。結局のところ、万が一に火災が発生した場合には工事のために開けておく必要がある2枚の防火区画シャッターを直ちに閉鎖する体制を整える以外に方法は無く、同被告人には防火管理者として右の注意義務があった。また被告人Aは、消防当局から夜間閉店後の防火区画シャッター閉鎖の必要性について指導を受けているのであるから、同シャッター閉鎖の必要性を十分に認識していた。 —大阪高等裁判所第7刑事部、判例時報1988(1262) 被告人Aの右注意義務についての被告弁護人らの所論に対する判断 (ア)防火区画シャッターを閉鎖する義務に関して 被告弁護人らは「防火区画シャッターを夜間常時閉鎖する義務はない」と主張したが、原審において「千日デパートでは、閉店後に売場の防火区画シャッターを閉鎖すべき状況が現にあり、また消防当局からの指導によって被告人Aが同シャッター閉鎖の必要性を知っていた以上、日本ドリーム観光としては、その体制を早急に整えておくべきであった」と説示したところは肯認できるので、被告弁護人の所論は採用できない。 被告弁護人は「防火区画シャッターを閉鎖する法令は無く、被告人Aが同シャッター閉鎖を認めなかったのは当然で、火災当日も同シャッターを閉鎖する義務はなかった」と主張した。それに対する大阪高裁の判断は以下のとおりである。工事作業中に工事監督とF電工社長の間で交わされた会話のなかで、金属カッターから発生する火花が商品に飛ぶ恐れがあるため、両名の間で以下のようなやり取りがなされた。「工事監督が『布か何かを被せて養生しろ』と言ったことに対し、F電工社長は『布を被せても同じだ』と答え、それに対して工事監督は『無いよりかはましだ』」と返答した。また工事監督は、火の付いたタバコを機械に擦り付けたり、床に捨てて足で踏み消したりしており、火災が発生する恐れが無かった工事とはいえないし、火気の管理が厳しくなされていたとはいえず、被告弁護人らの所論は失当で採用できない。 —大阪高等裁判所第7刑事部、判例時報1988(1262) (イ)保安係員を工事に立ち会わせる義務について 被告弁護人らは「ニチイがおこなった火災当日の工事は、危険性はなく、火気を使用するものでもないので、監督業務はニチイに任されば十分であり、日本ドリーム観光から保安係員を派遣して立ち会わせる事情はない。また工事関係者の喫煙についても、ニチイに対して文書で注意するように要望済みで、被告人Aが工事立会いを不要と判断したのは当然で、火災当日の工事に保安係員を立ち会わせる義務はなかった」と主張した。それに対する大阪高裁の判断は以下のとおりである。日本ドリーム観光と各テナントの間には、閉店後にテナントが不在の時は売場の管理は日本ドリーム観光がおこなう管理契約が売場賃貸借契約に付随して締結されていた。火災当日は、ニチイの従業員は1人も工事に立ち会っておらず、被告人Aもそのことを確認すらしていない。ニチイは、共同管理費を収めていることから保安管理上の立会いは、デパート管理部が行うものと考えており、そのようなものを置いたことはなかったので、工事元請の工事監督らに一切を任せていた。さらには工事現場には吸い殻入れさえ用意されていなかった。火災当日において、3階の工事現場で工事監督が火の付いたタバコを機械に擦り付けて消しているのであり、工事監督は自己の喫煙管理が出来ていなかったことが認められる。以上のことから、被告弁護人らが「被告人Aが保安係員の工事立会いを不要だと判断したのは当然だ」などとは到底言える状況にはなく、これらを前提とする被告弁護人らの所論は認められない。 —大阪高等裁判所第7刑事部、判例時報1988(1262)
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