発音原理と音域
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/05 06:44 UTC 版)
フルートの発音原理に関しては、大きく分けて二つの説が存在する。一つ目の説は、唇から出る空気の束(エアビーム)を楽器の吹き込み口の縁(エッジ)に当てることでカルマン渦が発生し、これがエッジトーン(強風のときに電線が鳴るのと同じ現象)を生じて振動源になるというもの。二つ目の説は、エアビームの吹き込みによって管の内圧が上昇し、これによってエアビームが押し返されると空気が抜けて内圧が低下し、再びエアビームが引き込まれるという反復現象が発生して、これが振動源になるとするものである。いずれにせよ、発生した振動に対し、管の内部にある空気の柱(気柱)が共振(共鳴)して音が出る。トーンホールを開閉すると、気柱の有効長が変わるので共振周波数が変化し、音高を変えることができる。 コンサート・フルートの基本的な音域はC4(中央ハ)から3オクターヴ上のC7までであるが、H足部管を用いれば最低音がB3となる。最低音からC#5までは基音であるが、D5以上の音は倍音を用いて発生させる。チューニングする(他の楽器とピッチを合わせる)際には、オーケストラではA5を、吹奏楽ではB♭5を用いる。音域は便宜上下記のように分けることが多いが、これは絶対的なものではなく、例えばC6を中音域とするか高音域とするかは時と場合によるし、稀には中音域と高音域をまとめて(中・高音域と呼ぶべきところを省略して)高音域と呼ぶこともある。 最低音からB4までの音域は、低音域あるいは第1オクターヴなどと呼ばれる。音量は小さく、特に最低音に近いいくつかの音は明瞭な発音が難しいが、幅広く柔らかい音色を特徴とする。 C5からB5までの音域は、中音域あるいは第2オクターヴなどと呼ばれる。C#5の音はトーンホールが小さいため響きがあまり良くなく、E5からF#5は音が割れやすいなど難しいところもあるが、表情豊かな音色を持ち、音量の制御も比較的容易である。 C6からC7の音域は、高音域あるいは第3オクターヴなどと呼ばれる。後述のようにキーメカニズムの関係でE6やF#6などの音が出しにくい上、ほとんどの音はピッチが高目であり、用いる倍音モードが音によって変わるため音色を揃えるのが難しく、運指も不規則で覚えにくいが、明るく輝かしい音色で、音量も比較的大きい。 C7より上の音域は、第4オクターヴなどと呼ばれ、F7までの運指が比較的広く知られているが、高い音ほど発音が難しい。この音域が開発されたのは20世紀に入ってからであり、現代音楽で使用されることがあるが、楽器によって発音の難易度やピッチのばらつきが大きく、運指法も一定していない。 標準的な運指を用いた場合の倍音モードの概略は下記の通りである。例えばC7はC4の第8倍音であるが、息の圧力で第8倍音を出すことは難しいので、左手はCとGis、右手はF以下のトーンホールを開けてやる(Esは閉じた方が良い)ことにより、C5の第4倍音かつG#4の第5倍音かつF4の第6倍音として発生させている。第3倍音、第5倍音、第6倍音によって出す音は、多少なりと平均律からのずれが生ずることなどもあって、高音域の音程はあまり良くない。 C4 - C#5:基音(H足部管の場合はB3も含む)D5 - C#6:第2倍音D6 :第2倍音、第3倍音D#6 - B6:第3倍音、第4倍音、第5倍音(音により異なる)C7 :第4倍音、第5倍音、第6倍音 モダン・フルートは、すべての木管楽器の中で最も論理的に設計されているが、さまざまな制約から妥協せざるを得ない部分もあるので、特に高音域には上記のように問題が多い。これらを完全に解消することは、設計上どのような工夫を以ってしても不可能であり、最後はアンブシュアの微妙な調節や特殊運指の使用など、奏者の技術に委ねられている。
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