男子の性被害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 09:50 UTC 版)
詳細は「少年への性的虐待」、「児童性的虐待」、「近親相姦」、および「毒親」を参照 子どもの権利条約において「児童」は「18歳未満のすべての者」を指すが、児童の性的虐待は女児だけでなく、男児にも多い。様々な統計があるが、世界的には少年は6人に1人、少女は4人に1人が被害にあっていると言われる。2004年3月のアジア女性基金『高校生の性暴力被害実態調査』では、性被害経験のある高校生男子が5~10人に1人いるとした。信田さよ子は、加害者は父・兄・祖父・従兄弟のような男性の場合と、母や姉といった女性の場合とがあるとし、日本では「男性=加害、女性=被害」という固定化されたジェンダー観から、男性の性被害者そのものがタブー化され、不可視にされていると指摘する。 また、性被害に対する受け取り方にも違いがみられる。たとえば痴漢にあった場合、女性は怒りや怯えなど「被害」と捉える傾向にあるが、男性は「武勇伝」と捉えることがある。「触らせてやった」「哀れみとともに観察してやった」「困ったやつら」と男同士で笑いとともに語り合い、面白おかしく観察しバカにする能動的ポジションに立ち、まるで痴漢に遭うことがステータスの上位を示すように捉える。信田さよ子は、これは「加害者」という定義を無効化しようとする意思であるとしている。 しかしこのような「武勇伝」的立場は性虐待には通用しない。父親から息子への性虐待の多くは、入浴中に性器を洗われながら弄ばれる、父親の性器を触らせられるなど風呂場で行われる。息子が被害を訴えることは稀で、父親は訴えられないと確信している。これは父親から娘への性虐待と全く同じ強者と弱者の図式である。能動的性の主体であるはずの自分が受動的で性的客体だったことは、自らが「女性化」されるということに他ならない。この自覚は性的アイデンティティーの形成に揺さぶりをかける。 また母親からの性虐待は、ケア・世話といった体で行われる。息子の性器を洗う、観察する、それを隠そうとするは変だと刷り込むなどし、自分を心配し、ケアしてくれていると息子を思い込ませる。娘への性虐待は父親からの「体を傷つける行為・被害」として記憶されるが、母親は息子の体を傷つけていない。よってのちに性虐待を自覚した際、「加害者の不在」という宙づり状態となる。どう受け止めるべきか混乱し、定義する言葉がみつかるまで長い時間を要する。 母親たちの性的まなざしは、ポリティカル・コレクトネス(PC)的な二分法だけではとらえられない、問題の複層化、複雑さの提示である。
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