王権と宇宙の原理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/22 17:33 UTC 版)
特に農耕社会にあっては、王は農作物の成長を促すエネルギーの源であり、森羅万象を統制する力を持つものとされた。ここにおいては、王は人間の身でありながら、同時に宇宙の秩序を司る存在として捉えられたのであり、現人神と考えられたエジプトのファラオは代表的な例である。それゆえ、老衰ないし病衰した王はすなわち自然を統御する力を失った王と見なされることがあった。ジェームズ・フレイザーが例示した「王殺し」と呼ばれるしきたりもこのような背景のもとに理解される。 王が住まう首都や王宮が、宇宙全体の縮図として、あるいは象徴として理解される例は、クメール王朝(アンコール朝)や古マタラム王国などを始めとするヒンドゥー教圏ないし仏教圏の東南アジアの諸王国で見られる。ここでは、梵(ブラフマン)が宇宙の根本原理であり、その宇宙論は輪廻転生を軸として展開された。また、中国の歴代王朝においては、天の子である皇帝が、祭祀の折、王宮の中央に建てられた明堂を回ることによって宇宙の運行が保持されるという観念があった。明堂は、それ自体が四季や一年の推移、方位などの宇宙の原理を表した祭祀建築物であった。 古代メソポタミアのシュメールにあっては、都市国家の時代も統一国家の時代も、都市支配者や王に課せられた責務は、外からの攻撃に対する防衛と、支配領域内の豊穣・平安を確かなものとすることの2つであった。初期の支配者・王は多くの碑文を遺しているが、ほとんどが神への奉納碑文であり、内容は神殿・城壁の建設、運河の開削など都市や国家の平安と豊穣に関わる行為である。 なお、シュメールにあっては王権を授与する神としては、エンリルとイナンナの2神があるが、都市国家分立期にはイナンナ、領域国家期にはエンリル、統一国家形成期には再びイナンナ、統一国家確立期には再びエンリルというように授与する神が交代する。このことに対し、前田徹は「王権を授ける神がエンリルとイナンナに分かれることは、王権に抱くイメージの差によるのであろう」としている。すなわち、エンリル神はシュメール統治にあずかる最高神であり、この神は安定した統治を願う時代に、一方、イナンナ神は外敵を排撃する神であり、この神は拡張主義の時代に、それぞれ王権を授与する神として認識されたものであると考えられる。
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