特異所見と重要な所見
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/28 03:01 UTC 版)
腓腹神経生検による診断において重要な所見をまとめる。 血管炎 血管炎では壊死性血管炎、微小血管炎、好酸球性肉芽腫が特異的な所見である。壊死性血管炎は顕微鏡的多発血管炎や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症で見られることが多い。小血管で血管構築が破壊されており血管壁内の細胞浸潤が内膜、中膜、外膜の全層にわたってみられ、内幕と中膜を隔てる内弾性板が断裂しているとわかりやすい。微小血管炎はクリオグロブリン血症、非全身性血管炎性ニューロパチーで認められる。細動脈が炎症の場となるが毛管壁が薄いため血管構築の破壊を病理で証明するのは困難である。しばしばCD68抗体(マクロファージ)やCD3抗体(Tリンパ球)といった免疫染色を併用する。好酸球性肉芽腫は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症で認められる。ステロイドが投与されると認められないことが多い。 サルコイド肉芽腫 非乾酪性の肉芽腫で類上皮細胞、ラングハンス巨細胞、リンパ球からなる。神経よりも筋での陽性率の方が高い。肉芽腫のみならばサルコイドーシスのほかハンセン病、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、多発血管炎性肉芽腫症などでも認められる。 アミロイド沈着 家族性アミロイドニューロパチーでは神経内鞘の血管周囲にアミロイド沈着が認められる。骨髄腫やALアミロイドーシスでも認められる。 活動性の脱髄 マクロファージがとりついて髄鞘をはがし貪食している像やシュワン細胞が自壊して髄鞘が壊れる、すなわち軸索周囲に髄鞘崩壊産物が認められる場合は現在進行形の活動性脱髄である。 神経内鞘のリンパ球浸潤 1神経束に内鞘に2〜3個程度のリンパ球は病的ではないと考えられる。血管周囲を取り巻く多数のリンパ球浸潤はCIDPを示唆する。これをperivascular cuffingという。 規則的な髄鞘のほぐれ 電子顕微鏡所見であるがwidely spaced myelinは抗MAG抗体陽性のニューロパチー、Uncompacted myelin lamellaはPOEMS症候群で認められる。 Onion bulb 有髄線維が脱髄と再髄鞘化を繰り返す過程でシュワン細胞が有髄線維を幾層にも玉ねぎ状にとりまいたものである。玉ねぎ状の取り巻きは通常4〜5層である。無髄線維や線維芽細胞を含むこともある。中心には髄鞘の薄い有髄線維があることも多いが軸索が残っていないこともある。CMT1A、CMT3、CIDPで認められる。 Small onion bulb 軸索を取り巻く構造が1〜2層程度のものである。CMT1BやCIDP、MMN、IgMパラプロテインを伴うニューロパチー、糖尿病性ニューロパチー、Krabbe病などで認められる。 Psedo-onion bulb 軸索変性後の再生線維はしばしばOnion bulbのようにみえる。中心の線維が2本以上あるいは不明瞭でとりまく成分に無髄線維を多数認める場合は再生繊維を疑う。 軸索腫大 ノルマルヘキサンなどの中毒性ニューロパチーで認められる。軸索輸送障害で認められる。 トマキュラ 局所的に髄鞘が過剰に取り巻き、厚さをましているものを指す。中心に軸索が残っているが軸索腫大はなくむしろ萎縮しているようにみえる。遺伝性圧脆弱性ニューロパチーで最も典型的に高頻度に認められる。その他はCMT4やIgMパラプロテインを伴うニューロパチーで認められる。 神経線維密度のばらつき 準特異的な所見である。後天性ニューロパチーを示唆する所見である。同じ神経束内でのばらつきの他に神経束どうしでばらつきが認められることもある。血管炎性ニューロパチー、サルコイドーシス、悪性リンパ腫などで認められる。近位部の病変で生検部位では軸索変性や軸索消失が認められるときもばらつきは出現する。 神経周膜の細胞浸潤 神経周膜の細胞浸潤はハンセン病、特発性神経周膜炎、クリオグロブリン血症、サルコイドーシス、ライム病で認められる。 small fiber neuropathy 小径線維優位の脱落、変性はアミロイドニューロパチー(特に家族性の初期)、糖尿病性ニューロパチー(多発性感覚神経優位型)、急性自律性感覚性ニューロパチー、遺伝性感覚性ニューロパチー、ファブリー病、アルコール性ニューロパチーの一部、シェーグレン症候群の一部で認められる。 神経内鞘の浮腫 神経内鞘の浮腫は細胞成分がなく、トルイジンブルーで薄く染色される。神経周膜下に限局するものは病的意義はとぼしいが、内鞘の内部に広範囲に見られる場合は意義がある。POEMS症候群や多層性のonion bulbが認められる疾患CMT3、CIDP、Krabbe病などでよく認められる。
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