瀬戸内海の栄養塩問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/07 01:17 UTC 版)
瀬戸内海は1960年代から1970年代にかけて富栄養化による赤潮が発生しており、1973年に瀬戸内海環境保全臨時措置法が制定され、2001年にはCODに加え窒素、リンの総量規制が導入された。これに伴い瀬戸内海の赤潮発生が減少するとともに海の透明度も増してきた。その一方で養殖海苔の色落ちが頻発。プランクトンを餌とするイワシやイナカゴ、それらを捕食するサワラなどの漁獲量も低迷している。これらの原因を「海が痩せた」こと、つまり栄養塩の過度な減少、いわば富栄養化の逆の「貧栄養化」に求める研究者も存在する。魚介類の餌となる小魚・動物プランクトンの下で基礎生産を担う藻類・植物プランクトンは窒素やリンが必要なためである。ただし反論として、漁獲量減少は乱獲が主な原因であるという意見もある。瀬戸内海への栄養塩の減少や貝漁獲量の減少の原因になっている干潟の減少は、ダムの建設やコンクリートによる河川の整備による栄養塩や土砂の瀬戸内海への流出の減少が原因であるとも指摘されている。2015年10月2日に瀬戸内海環境保全特別措置法が改正され、同年2月に瀬戸内海環境保全基本計画が変更され、従来の瀬戸内海の「水質を保全」する考え方から「水質を保全・管理(地域性や季節性に合わせて水質を管理)」する考え方に改め、干潟や藻場の再生を行っていくなど瀬戸内海を取り巻く環境を整備することで生物多様性・文化的に「豊かな海(里海)」へすべく調査・研究・対策が行われることになった。 2018年、兵庫県は県環境審議会の小委員会では、窒素濃度の下限を設定する新基準案を提示。窒素濃度の低減を目指してきた行政の転換点となった。藤原建紀(京都大学名誉教授)は、(下限として提示される)窒素濃度0.2 mg/l以下はダイビングに適するほどの透明度。瀬戸内海では海藻だけでなく、アサリや小魚などにも影響が出ているとコメントしている。 兵庫県は2019年、日本水産資源保護協会の基準を参考に窒素とリンの下限を設定した条例改正を行ない、政府も瀬戸内海環境保全特別措置法の2021年改正で「きれいな海」から「豊かな海」へ政策目標を変更した。ただ、瀬戸内海へ流入する窒素やリンの量は陸域からの流入より太平洋との海水交換の影響が大きいとの見解もあるほか、赤潮の再発を懸念する地域もある。
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