海洋戦略の実践
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/09/20 09:35 UTC 版)
ここまで戦争の一般的な理論を論じてきたコーベットが、ここで海軍戦略の問題に入る。海軍の目的は制海権の確保か、敵にそれを確保させないかであると考えられる。ただし制海権を彼我どちらかが独占するという前提は、海軍史の観点から見て正しくない。通常はどちら側も制海権を完全には支配できず、確保できたとしても海軍が海洋を支配するわけでもない。制海権の確保とは領土の占領ではなく、海上交通の管制を意味する。したがって海戦では海上において通商交通の官制を強いる手段が必要となる。それは敵側の船舶の海上での捕獲または輸送財産の破壊によって実施され、これをコーベットは通商破壊ではなく通商防止と呼んだ。 そもそも海上戦闘において敵対行為の基本は海上輸送される財産の略奪であり、これは陸上での軍事輸送とは地理的な特性が異なる。陸上での輸送に用いる交通路はそれぞれの国家が領土として所有しているが、海上交通路はしばしば交戦国が共有する。つまり我の海上護衛なしでの敵の通商防止は危険である。これには敵に対して経済的な圧力をかける意味がある。つまり海戦において通商防止は、陸上での戦争のような副次的なものではない。 このような制海権の原則に基づいて、海軍の戦力の組成を考える必要がある。艦隊の編制は海軍の戦略と戦術の具体的表現であり、従来では戦艦・巡洋艦・戦隊の区分が使用されてきた。しかしこの分類法はガレー船・蒸気船と、時代に応じて変化してきた。一般的に論じるなら次のような複雑な問題がある。散在する攻撃から大型の艦艇を安全にはできないが、分離した大型の艦艇は海上封鎖を回避しながら移動し、海上交通路を移動する多くの小型艦艇を無力化できる。さらに小型艦艇が魚雷を装備して、これまでにない戦闘力を持った。このような諸々の理由は海軍の艦隊編制だけでなく、それまでの戦艦・巡洋艦・戦隊という区分の意味そのものに見直を迫る。 組織化された艦艇の運用に関する理論は、集中の概念を起点として説明できる。しばしば戦略は「適当な場所と時間において最大の戦力を集める技術」と書かれ、これを集中と表現できる。集中とは少なくとも 行政過程における集中 作戦開始の地点への集中 戦術展開の集中 に分けられる。集中にはひとつに集団を形成する利点があるが、それは秘匿性・柔軟性を失う欠点もある。したがって「集中した集団をいかに分散するか」という問題が導き出される。この選択は状況により、特に敵と我との相互作用に基づいて決断しなければならない。
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