海洋戦争の理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/09/20 09:35 UTC 版)
戦争の一般的な理論の把握を踏まえ、コーベットは近代帝国の重要な地理的条件である海洋について検討を加える。無制限戦争の理論では、敵軍を攻撃し敵の国土を攻略することが前提とされる。一方で制限戦争における制限の形式は、攻撃目標の政治的な重要性と地理的な位置という条件によって左右される。陸における国境紛争では、国境・領土の重要性は自明でしかも地理的に孤立していないため、制限戦争・無制限戦争の差異は明確にならない。しかし海洋における海外領土では逆に政治的重要性は均一ではなく、その位置によっては海軍力によって容易に孤立させられるため、戦争の拡大を制限できる。コーベットはこの制限の成功例として、七年戦争でのカナダとハバナや米西戦争でのキューバを挙げ、これらの事例では海軍によって戦争目的の孤立化が行われたと評価する。しかもこの制限戦争は島国または海洋で隔離された国家にとって永久に可能と論じている。 コーベットはさらに制限戦争の形式として派遣によって制限された戦争の形式を検討しており、その重要性を強調している。派遣による制限された戦争は18世紀の戦争でも数多くあり、死活的な利益を目的としない国家が交戦国に戦力を提供しながら戦争を遂行している。このような派遣部隊による戦争は、制限戦争の形式に接近することで成功を獲得すると経験的に考えられる。つまり派遣された陸軍は敵の一部の地域を確保し、程度に応じて海軍がその地域を孤立させることで勝利を収めている。イギリスが七年戦争でプロイセンに陸上部隊を派遣した目的は、フランス軍がハノーファーを占領してプロイセン軍の作戦正面に対する側背を掩護するという、制限されたものであった。しかもこの派遣部隊は海洋と接触を保ちながら後方連絡線を確保し続けた。 これまでの論考で、制限戦争の優位性は防勢の優位性と類似していることが分かる。地理的な条件から海軍によって陸軍の規模を制限できることが戦略的な優位となる。したがって制限戦争は敵に主導権を提供するものの、我は選定した地形で防御を準備し、敵の前進と攻撃による根力の消耗と時間的猶予を活用できる。そのために政治目的が戦争に与える影響を管理する必要がある。このような戦争に突入するには所要の軍事力の決定が重要であり、地理的範囲と関連付けた制限目的に対する敵の評価や交通路の地理的状況、作戦の初期段階において直面する障害の度合いによって判断する。
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