洞穴の生物学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/12/10 02:21 UTC 版)
洞穴には様々な独自の生物相が存在する。洞穴における生態系は様々で、地表の生態系と明確に分離していないことも多い。しかし一般に、洞穴が深くなればなるほど、その生態系の独自性が強まる。 「洞穴生物」を参照 洞穴環境は以下の3つに分類される。 地中性 (Endogean): 岩の割れ目や岩礫と岩礫の間の空隙、雨水が浸み込む土壌中の流れみち、腐った木の根、小動物の掘った穴などにより、地表との連絡がある部分。 半地下性 (Parahypogean): 入り口からの光がやっと届く程度の境界部分。 地下性 (Hypogean): 真の洞穴環境。地表とは気流や地下流をつうじてつながりがあり、稀に動物が入り込むこともあるが、基本的に孤立している。地下性環境は日光をエネルギー源としない独自の生態系を育んでいる。硝化バクテリア、硫黄バクテリア、鉄バクテリアや放線菌などの化学合成独立栄養生物が、洞穴粘土中の無機物から得られる化学エネルギーを利用し、他の動物の発育に不可欠な有機物をつくりだしているのが基本となっている。 洞穴生物は以下の3つに分類される。 真洞穴性動物 (Troglobites): 洞穴にしか棲めない動物。短時間なら洞窟から出られるものもあるし、ライフサイクルの一部を地表で過ごすものもあるが、生涯を洞穴外で過ごすことはできない。例として化学合成独立栄養生物(細菌)、一部の扁形動物、トビムシ、メキシコメナシウオなどがある。 好洞穴性動物 (Troglophiles): 生涯の一部あるいは全部を洞穴で過ごすが、地表であっても適切な環境があれば棲める。例えば、カマドウマ、ヤスデ、カニムシ、クモなどがある。 周期性洞穴動物 (Trogloxenes): 洞穴によくいて、ライフサイクルの一部を洞穴で過ごす必要があるものもいるが、地表または半地下性環境に基本的に棲息する。洞穴棲コウモリやアナツバメ、アブラヨタカ、ホラアナグマ、冬眠性の爬虫類などがこれに属する。 また、通常地表に棲むものが洞穴を好むわけでもないのに何らかの偶然によって洞穴に棲む場合もある。中には長期間洞穴にいては生きられないもの(Troglophobes) もいる。例えば、穴に落ちた鹿、洪水で流されて洞穴に落ち込んだカエルなどがある。 洞穴の生態系を特徴付けるのは、エネルギーと栄養素である。カルスト地形の洞穴では水分はある程度常に確保される。日光が届かず、枯葉などが積もることもないため、地表の水分の豊富な領域に比べると洞穴の環境はきびしい。洞穴環境でのエネルギーの大部分は、外界の生態系の剰余部分が起源となっている。地下水の流れにのって入ってくる地表の有機物の砕片や、周期性洞穴動物の糞がエネルギーや栄養素の元となっている。例えば、コウモリの糞である。その他の必須栄養源は上述の通りである。 洞穴の生態系は非常に繊細である。人間の活動によって脅かされることが多い。ダム建設、石灰石の採掘、地下水のくみ上げ、あるいはちょっとした災害によって地下の生態系は壊滅的な打撃を受けることがある。
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