氷による閉塞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/10/17 13:43 UTC 版)
「フランク・ワースリー」の記事における「氷による閉塞」の解説
エンデュアランスはサウスジョージア島を出発してから3日後に叢氷と出逢い、ワースリーは様々な氷山の間を抜けて船を操船し始めた。ある場合には氷を押し分けて進むことが必要な場合もあった。進行度は日によってばらばらとなった。ほとんど前に進めない日もあれば、大きく海が開けて南に速やかに進むことができた日もあった。ワースリーは見張り所から氷の割れ目を探し、直接操舵手に指示をおくることも多かった。ワースリーの気性が命令に従うよりも命令を与えることに向いていないこと、命令を出すとすれば最大限の決断で出していることにシャクルトンが気付いたのはこの時期だった。 1915年1月18日、船は氷に囲まれてしまった。数日間の内にエンデュアランスは氷に固く囲まれ、次の冬までそのままになりそうなことが明らかになった。氷に囲まれたまま、船は西に漂流を始め、遠征隊は越冬体制に入った。当初の計画では、陸上部隊を南極大陸に残し、一方ワースリーがエンデュアランスを北に移動させるはずだった。長期間にわたって遠征隊全員が船の上で生活するとは予想だにしていなかった。ワースリーは挑戦を好んだ。真冬であっても客室ではなく廊下で眠り、氷の上で雪の風呂に浸かることで船上の隊員を驚かせた。エンデュアランスが氷に捕まってからやることがなくなったので、大洋の深さを測り、標本を集めることに没頭した。後には『生物学、測深および磁気の記録、ウェッデル海、1914年-1916年』と題する報告書を書いた。 7月までに、氷がエンデュアランスを潰してしまいそうに思えるようになった。エンデュアランスは氷の圧力で軋み、震えていた。シャクルトンはワースリーに、必要な場合には直ぐにも船を捨てる準備をするよう指示を出した。ワースリーは当初半信半疑であり、シャクルトンに「貴方は真剣に船が無くなると私に告げようとしているのか?」と尋ねた。シャクルトンは「船長、この船は生き残れないよ」と答えた。最終的に10月24日、氷の圧力でエンデュアランスの船尾ポストが捻じれ、船は直ぐに傾き始めた。水漏れを止め、水を搔い出す懸命の努力が行われたが、シャクルトンは3日後に船を捨てる命令を出した。隊員は生存のための物資を降ろし、10月30日に200マイル (320 km) 北東のロバートソン島に向かうべく氷に降り立った。その3日後には、氷の表面が粗すぎて、橇で移動するには向かないことが分かった。エンデュアランスが沈んだ所から僅か1.5マイル (2.4 km) 進んだだけで、遠征隊は氷が割れるのを待つために宿営を張ることに決めた。潰れたエンデュアランスはまだ完全に沈んではおらず、そこから木材やテントを運び出して、オーシャン・キャンプと呼んだ間に合わせのキャンプが設営された。遠征隊は12月23日まで2か月間そこに留まってからキャンプを打ち上げた。 当時温度が上がっていたので足元の状態は軟かだった。シャクルトンは夜間に移動を行うこととし、エンデュアランスの救命ボート3隻を後ろに引き摺っていた。この引き摺り作業は大変な労働であり、シャクルトンと隊員は1週間強努力した後で、再度キャンプを張ることを強いられた。足元の氷は耐えず北に漂流していた。1916年4月までにエレファント島を視認できるまで近づいていたが、氷の割れが始まっていた。シャクルトンは救命ボートへの乗船を命じた。ワースリーはその1隻ダドリー・ドッカーを任された。氷と潮流が進行を妨げたのでエレファント島までは1週間を要して辿り着いた。 最初の数日は近くにある浮氷の上でキャンプし、常に氷が割れる危険性と隣り合わせだったが、最後の4泊はボートの上であり、ワースリーはその間の大半である90時間をかじ取りをして眠ることなく真っ直ぐに進んだ。甲板の無いボートでもその経験がダドリー・ドッカーの健全な操作に現れ、そのナビゲーション能力は優れたものであり、一度お誂えの風を掴むとエレファント島まで過たずに救命ボートの船隊を進めることができた。海上にあった最後の夜、その日早くにエレファント島が見えており、荒海のためにワースリーのボートと他の2隻が離れ離れになった。ワースリーのボートが水を掴み激流に乗っている間、ワースリーはダドリー・ドッカーの舵を夜通し掴んでいた。翌朝緊張から解放されると直ぐに眠りに落ち、頭を蹴られないと目を覚まさないくらいだった。ワースリーの仲間がその深い眠りから揺り起こすために使った方法をやっと理解できたのは3年も経った後のことだった。ダドリー・ドッカーは4月15日に岸に乗り上げ、エレファント島の砂利浜に他の救命ボートと共に上陸できた。遠征隊にとってほぼ18か月振りの陸地だった。
※この「氷による閉塞」の解説は、「フランク・ワースリー」の解説の一部です。
「氷による閉塞」を含む「フランク・ワースリー」の記事については、「フランク・ワースリー」の概要を参照ください。
- 氷による閉塞のページへのリンク