正則関数の空間
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/13 01:23 UTC 版)
ハーディ空間 複素解析や調和解析で用いられるハーディ空間は、その元が複素領域上の正則関数となっているような関数空間の一種である。U をガウス平面上の単位円板とすると、ハーディ空間 H2(U) は U 上の正則関数 f で、その平均 M r ( f ) = 1 2 π ∫ 0 2 π | f ( r e i θ ) | 2 d θ {\displaystyle M_{r}(f)={\frac {1}{2\pi }}\int _{0}^{2\pi }|f(re^{i\theta })|^{2}\,d\theta } がまた r < 1 で抑えられるようなもの全体の成す空間として定義される。このハーディ空間上のノルムは ‖ f ‖ 2 = lim r → 1 M r ( f ) {\displaystyle \|f\|_{2}=\lim _{r\to 1}{\sqrt {M_{r}(f)}}} で与えられる。この円板上のハーディ空間はフーリエ級数と関係があり、正則関数 f が H2(U) に属するための必要十分条件は、 f ( z ) = ∑ n = 0 ∞ a n z n , ( ∑ n = 0 ∞ | a n | 2 < ∞ ) {\displaystyle f(z)=\sum _{n=0}^{\infty }a_{n}z^{n},\qquad \left(\sum _{n=0}^{\infty }|a_{n}|^{2}<\infty \right)} なる形に書けることである。従って、空間 H2(U) は、単位円板上の L2-関数で、負の周波数に対するフーリエ係数が消えているようなもの全体からなる。 ベルグマン空間 正則関数の成すヒルベルト空間の別なクラスにベルグマン空間がある。D をガウス平面(または高次元の複素空間)の有界開集合とし、L2,h(D) を D 上の正則関数 f で ‖ f ‖ 2 = ∫ D | f ( z ) | 2 d μ ( z ) < ∞ {\displaystyle \|f\|^{2}=\int _{D}|f(z)|^{2}\,d\mu (z)<\infty } なる意味で L2(D) にも属するようなもの全体の成す集合とする。ただし積分は D におけるルベーグ測度に関してとる。明らかに L2,h(D) は L2(D) の部分空間であり、実は閉部分空間になっているので、それ自身ヒルベルト空間を成す。このことは、D のコンパクト部分集合 K の上で有効な評価 sup z ∈ K | f ( z ) | ≤ C K ‖ f ‖ 2 {\displaystyle \sup _{z\in K}|f(z)|\leq C_{K}\|f\|_{2}} からの帰結である。この評価自体はコーシーの積分公式から出る。従って、L2(D) に属する正則関数列の収束はコンパクト収束でもあるから、極限関数もまた正則になる。先の評価不等式の別な帰結として、D の一点において関数 f を評価する線型汎関数は、実際には L2,h(D) 上で連続であることがわかる。リースの表現定理によれば、この評価関数を表現する L2,h(D) の元が存在するから、各 z ∈ D に対して関数 ηz ∈ L2,h(D) で f ( z ) = ∫ D f ( ζ ) η z ( ζ ) ¯ d μ ( ζ ) {\displaystyle f(z)=\int _{D}f(\zeta ){\overline {\eta _{z}(\zeta )}}\,d\mu (\zeta )} をすべての ƒ ∈ L2,h(D) に対して満たすようなものが取れる。被積分関数の因子 K ( ζ , z ) = η z ( ζ ) ¯ {\displaystyle K(\zeta ,z)={\overline {\eta _{z}(\zeta )}}} は D のベルグマン核と呼ばれる積分核で、再生性 f ( z ) = ∫ D f ( ζ ) K ( ζ , z ) d μ ( ζ ) {\displaystyle f(z)=\int _{D}f(\zeta )K(\zeta ,z)\,d\mu (\zeta )} を満足する。 ベルグマン空間は再生核ヒルベルト空間(英語版)(関数からなるヒルベルト空間で、先と同様の再生性を持つ積分核 K(ζ,z) を備えたもの)の例になっている。ハーディ空間 H2(D) にもセゲー核(英語版)と呼ばれる再生核を持つ。再生核は数学のほかの分野でもよく用いられる。たとえば、調和解析におけるポアソン核は単位球体上の自乗可積分調和関数全体の成すヒルベルト空間(これがヒルベルト空間を成すことは調和関数に対する中間値の定理からわかる)に対する再生核である。
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