有効性への批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/08 01:57 UTC 版)
古い時代の精神分析では、精神科疾患に対する診断が各国、各地、各個人医によってバラバラであった時代が長く続いた。したがって同一の患者が、日本で、ドイツで、アメリカで、アフリカで、まったく別の診断を下されるという事になり、国内でも東大式診断、京大式診断をはじめとする分裂した診断が普通に行われていた(正しくは現在もそうである)。 当然のことながら治療結果に関する測定方法論も寄せ集めやでたらめであり、それらの時代の治療への肯定も否定も、ほとんど全て科学的立証として無意味なものであった。精神分析を肯定する論文も、否定する論文も、ほとんどはこれらばらばらの診断基準、恣意の治療結果測定基準から来るもので、それゆえに様々な心理療法が、異なる学派の心理療法の専門家は他の学派の心理療法の専門家を自由に批判した。しかし今日のエビデンスベイスドの理念に従えば、それら古い時代の肯定・否定的文章のどちらからも、臨床的効力に関して言及できることは何一つない。 例えば指導的なアメリカ人精神科医であるE. Fuller Torreyは、その著書「Witchdoctors and Psychiatrists」(1986)の中で、精神分析の理論は伝統的な土着の「呪術医」やErhard Seminars Training(EST)のようなオルタナティブな近代「カルト」と同程度にしか科学的根拠がない、と述べているが、1980年代のアメリカの精神科医学は今日からみて幾らか呪術的であり、今日の精神科医学も後世から見ればずいぶん呪術的と言われるであろう。ただしいまだに脳の内部での物理的現象がどのように心理的に具現化するかは解明されておらず、今日の精神科医学も雑誌Scienceに載ったローゼンハン実験(Rosenhan experiment)など仮病の精神病と実際の精神病の区別をつけることができない状態にあることが明らかになっている (Rosenhan, D.L. (1973). On being sane in insane places. Science, 179, 70, pp. 250-8)。 しかしながら、エビデンスベイスド時代の精神分析の有効性については、さまざまな疾患に対しての臨床効果の研究がなされており、パーソナリティ障害などに対して、RCTやメタ分析、系統的レビューによって、効果が確かめられている(例えば、F,Leichsenring&S,Rabung 2008やJ,Shedler 2010)。
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