日本の雇用契約の特殊性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/25 15:35 UTC 版)
「正規社員の解雇規制緩和論」の記事における「日本の雇用契約の特殊性」の解説
「ジョブ・ローテーション」も参照 厚生労働省出身の労働法政策の研究者である濱口桂一郎によると、解雇規制が適用される雇用契約は日本と日本以外では大きく違っており、日本の解雇規制が先進国で最も厳しいというのは一面的な見方である。日本以外の主にヨーロッパの国々では、企業の業務を切り分け具体的な職務に対応する形で労働者と雇用契約を結んでいるので、その職務に必要な人員が減少すれば原則として整理解雇をすることができる。ただし、手続きに従わない不当解雇は厳しく規制されている。日本では、雇用契約で職務が決まっておらず、労働者は企業の中のすべての業務に従事する義務があり使用者はそれを要求する権利を持っており、この対価としてある職務に必要な人員が減少したとしても余剰人員を別の職務に異動させて解雇を回避する努力義務が生じているが、日本以外の国では不当解雇とみなされるような、残業命令や転勤辞令を拒否した労働者を解雇することや学生運動を理由に解雇することを最高裁は原則として認めており、日本の解雇規制が先進国で最も厳しいというのは違っているとしている。ただし、日本の中小零細企業では全く状況が違って経営不振による解雇は万能の正当事由と考えられており、ここでは解雇を規制する法律はほとんど守られておらず判例法理とは違っている状況がある。労働局あっせん事例で最も多いのは、残業代の支払いや有給を申し出たら態度が悪いと見なされて解雇されている事例で、この場合、解決金で最も多いのは10万円で8割が50万円以下である。こういった場合でも膨大な時間と費用を費やして裁判を行えば解雇無効の判決を得られるかもしれないが、裕福ではない大多数の中小零細企業労働者にとって現実的ではなく、これらの事例は裁判所に持ち込まれる件数に比べて非常に多いが、判例だけを見ている法律家や経済学者には見えづらい事例だと述べている。 経済学者の竹中平蔵は、日本の正社員は強く保護されて容易に解雇ができない非常に恵まれた存在であり、企業はリスクを回避するために非正規の雇用を増やしてきた。経済を成長させるために正社員の保護を緩和すべきと述べているが、これに対して濱口は、日本の正社員は決まった職務がない契約でどんな業務でも従事する義務を負う代わりに雇用が保護されているのであって、雇用が保護されている点だけを他国と比べて非常に恵まれていると判断するのは一面的な見方であり、この重い義務を維持しながら雇用の保護を剥奪することには反対であると述べている。一方、日本の非正規雇用労働者は、整理解雇時の保障が少ないだけでなく不当解雇や雇い止めに対する保護も少なく低い賃金と悪い労働条件で働かされており、権利と義務のバランスが取れておらずこれを改善するべきとしている。 そして濱口は、不当な解雇がされやすい中小零細企業の労働者は、ドイツやスウェーデンのような金銭補償基準を法定した方が救われるのではないかと述べている。
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