成立背景と伝播
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/02 00:35 UTC 版)
ヘブライ語を読めないギリシア語圏のユダヤ人、また改宗ユダヤ人が増えたため翻訳がなされたと推測される。いわゆる「ディアスポラ」のユダヤ人はヘレニズムに先行するが、ギリシャ語話者ユダヤ人(ヘレニスト)は、アレクサンドロス大王の遠征以降、一層増加したと思われる。外交文書とか、通商交易に関した文書が翻訳されるということはいつの時代、どこでも行われたであろうが、旧約聖書のような量も多く、且つ内容も物語、詩文、法律文書、箴言など多岐にわたるものが翻訳されたのは、人類史上画期的であった。 新約聖書内には、旧約から引用する際、この訳を用いている場合が多い。パウロはヘブライ語、アラム語も読めたようであるが、書簡では引用に際して一部これを用いている。ヒエロニムスも旧約の翻訳の際に、これを参照している。また、ルネサンス以前の西欧では、ヘブライ語の識者が殆どいなかったためもあって、重宝されたようである。なお正教会ではこれを旧約正典として扱い、翻訳の定本をマソラ本文でなく、七十人訳におくことがある。 ちなみに、パウロを始め当時の使徒たちが用いていた旧約聖書は専らギリシア語訳の聖書であるため、この七十人訳聖書はキリスト教研究にとって極めて重要な聖書であると言える。また、七十人訳が、ラテン語、アルメニア語、コプト語、エチオピヤ語,グルジア語、古スラブ語など初期のキリスト教会の各方面で旧約が翻訳される時の基礎となった。 また、言語xから言語yに通訳、あるいは翻訳する時は、言語xで言われたこと、書かれていることを解釈、理解したことが前提とされる。したがって、七十人訳のなかで、ヘブライ語あるいはアラム語から翻訳された部分は旧約聖書の最古の聖書解釈を保存している、という意味でも重要であり、七十人訳は単にヘブライ語、アラム語の旧約原典の歴史をたどる、あるいはその背後にある原典の再構成のための本文批評のため以上の意義をもつ。それがために、七十人訳を現代語に翻訳してそれに注解を加えると言う企画も進行中である。その一つは、La Bible d'Alexandrieである。 最古の写本では、断片的なパピルス以外には、バチカン写本、シナイ写本、アレクサンドリア写本など4~5世紀のほぼ完全な写本が残っている。これは、ヘブライ語の最古の完全な写本であるレニングラード写本(1008年)より遥かに古く、旧約の本文批評の作業で重要な位置を占める。紀元前4、5世紀のヘブライ語原典を、ある程度想像できるからである。しかし、七十人訳が原典の忠実な翻訳であるとも限らないため、問題は多い。
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